王都、買い出し
翌日。
俺は空を見上げる。
王都の空は、今日も広い。
王との謁見は二日後だ。
王都でほとんど観光どころか買い物すらできていない。
「買い物でもするか」
「は?」
アクセルの耳がぴくりと動く。
ノアが横で首を傾げる。
「目的は」
「サイファへの土産」
即答。
アクセルが一瞬黙る。
「……それは、必要か」
「必要だろ」
俺は真顔で返す。
「俺たちが帰ったら、絶対囲まれる」
ノアが静かにうなずく。
「王都の帰還報告」
「そう、それ」
絶対に何か期待される。
なら。
物でごまかす。
アクセルがぼそり。
「戦果より物か」
「平和的解決だ」
「……弱い」
「うるさい」
⸻
王都の中央通りは、人が多い。
石畳が白い。
店の看板も派手だ。
「サイファと全然違うな……」
思わず漏れる。
アクセルは鼻を鳴らす。
「中心だからな」
ノアは周囲を観察している。
だが、たまに目線が少し低い。
ここちゃんを見ている。
腕の中のここちゃんは、きゅる、と鳴いた。
「……その個体は目立つ」
「個体言うな」
アクセルが淡々と言う
「兎でいい」
「雑だな」
ノアは少し考えてから言い直す。
「……白い兎」
「改善した気がしない」
⸻
菓子屋に入る。
甘い匂い。
だが、棚の奥は値札が怖い。
金箔付き。
砂糖漬け。
宝石箱みたいなやつ。
「……あれは無理だな」
俺が小声で言う。
アクセルが一瞥する。
「貴族用だな」
ノアが瓶を持ち上げる。
「保存は効くが、高い」
「論外」
ここちゃんは完全無反応。
当然だ。
砂糖で固めた果実なんて興味がない。
だが。
店の端。
木箱にざっくり入れられた――
干しリンゴ。
乾燥ベリー。
そのままのドライフルーツ。
ここちゃんの耳がぴくりと動く。
きゅる。
「お、そっちか」
腕の中から身を乗り出す。
むぎも胸ポケットから顔を出す。
キュ。
二匹同時反応。
「……分かりやすいな」
アクセルが言う。
「庶民派だ」
「うるさい」
ノアが一つ摘んで光にかざす。
「質は悪くない」
《提案:糖分添加なし。自然乾燥》
(今のは役立った)
《……評価上昇》
一拍。
《評価維持を希望》
(何を目指してるんだお前は)
《目的未設定》
(だろうな)
ポンコツ。
⸻
「量は?」
「袋で売ってるな」
「それにしよう」
値段を見る。
……いける。
「よし、これなら配れる」
アクセルが小さく頷く。
「囲まれても足りる」
ノアがむぎを見下ろす。
「食べるか」
むぎ、キュ。
ここちゃん、きゅる。
二匹とも素直。
アクセルがぽつり。
「俺の分は」
「お前は自分で買え」
「……」
アクセルは本気で考え込んでいる。
その姿に、ノアが少しだけ視線を逸らす。
「甘味は体力回復に寄与する」
「フォローが雑だぞ」
⸻
会計を済ませる。
高級菓子は買っていない。
でも。
なんか、こっちのほうがしっくりくる。
「……悪くないな」
俺が言う。
アクセルが軽く鼻を鳴らす。
「背伸びは不要だ」
ノアが袋を受け取る。
「帰還時の反応が楽しみだ」
「煽るな」
《予測:サイファ住民満足度上昇》
(だから数値化するな)
《……処理停止》
三秒後。
《再計算中》
(止まれ)
ここちゃんが、きゅる、と鳴いた。
王都の空の下。
白兎の庭は、ただの買い物客だった。
そして多分。
それが一番、平和だった。
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