王国宰相
翌日。
王都の宿。
朝の光が窓から差し込む。
扉が、三度、規則正しく叩かれた。
レインが扉を開ける。
赤と金の外套。
王都騎士団。
「白兎の庭」
短く名を呼ばれる。
アクセルが後ろから答える。
「いる」
騎士はうなずく。
「迎えに来た」
「宰相閣下がお待ちだ」
レインは息を吐く。
「来たか」
ノアが言う。
「予定通りだ」
ここちゃんが腕の中で、きゅる、と鳴く。
むぎが胸ポケットの中で小さく動く。
レインは二匹を見下ろす。
「お前らも行くか」
ここちゃん、きゅる。
むぎ、キュ。
⸻
王宮西棟。
白い石の廊下が続く。
足音が響く。
騎士が扉の前で止まる。
「こちらだ」
扉が開く。
机と書棚。
壁には王都周辺の地図。
机の向こうに男が座っていた。
灰色の外套。
「宰相のアウグストだ」
レインたちは頭を下げる。
「座ってくれ」
椅子に腰を下ろす。
宰相は書類を一枚開いた。
「まず、転移迷宮の件から確認する」
視線がノアへ向く。
「騎士団からの報告は受けている」
「だが、記録として整理しておきたい」
ノアがうなずく。
「構わない」
「転移直前、貴殿は何をしていた」
「迷宮調査だ」
「七層」
「転移罠を確認」
「接触後、中央大陸へ転移した」
ペンが動く。
「単独行動か」
「単独」
「罠の構造は」
ノアはわずかに間を置く。
「精霊術式ではない」
ペンが止まる。
「理由は」
「精霊との共鳴を使わない」
「閉鎖型転移式だ」
一拍。
「古い構造だった」
静かになる。
「設置されたものと見ているか」
「その可能性が高い」
書類がめくられる。
「精霊大陸へは照会を出している」
レインが顔を上げる。
「向こうは何て?」
「転移迷宮は封鎖」
「原因不明の異常が確認されているとの回答だ」
「異常?」
「詳細は不明」
「現在調査中」
ノアが言う。
「関連がある可能性はある」
宰相がうなずく。
「現時点で断定はしない」
書類が閉じられる。
「次に」
視線が三人へ向く。
「鉱山の件だ」
レインが肩をすくめる。
「コカトリスか」
「それと救助」
「そして鉱脈」
書類を軽く叩く。
「救助判断は貴殿か」
「指示は出した」
「石化個体を残してでもか」
「全員抱えて逃げるのは無理だった」
「だから優先順位を決めた」
宰相は何も言わない。
アクセルへ視線が移る。
「戦闘判断はどう見た」
「妥当だ」
「無駄がない」
ノアへ。
「救助行動の評価は」
「生存率を上げた」
⸻
書類がめくられる。
宰相の視線がレインの腕へ落ちる。
ここちゃんが、きゅる、と鳴く。
「もう一件」
「石化解除だ」
レインが少し顔をしかめる。
「それか」
「石化した人数」
アクセルが答える。
「Bランク冒険者」
「鉱山夫とCランク冒険者」
「合計で十数名」
「全員回復したのか」
「した」
宰相がノアを見る。
「解除を確認したのは」
「私とアクセルとレイン」
「発動源はこの個体」
ここちゃん。
宰相はそれを見る。
「詠唱は」
「ない」
「接触もない」
「光が広がり、石化が崩れた」
「範囲解除か」
アクセルがうなずく。
「個別ではない」
宰相がレインを見る。
「貴殿はどう認識している」
レインは肩をすくめる。
「分かりません」
「気づいたら光ってたので…」
ここちゃんが、きゅる、と鳴く。
「再現は可能か」
「いえ」
「狙ってやったわけじゃないので」
沈黙。
宰相は書類を閉じる。
「現時点では記録のみとする」
⸻
宰相が三人を見る。
「鉱山の件は急を要する案件だった」
一拍。
「三日後」
「王との謁見だ」
アクセルが息を吐く。
「来たな」
ノアが言う。
「合理的だ」
レインは天井を見る。
「面倒だな…」
宰相の口元がわずかに動く。
「だが必要だ」
「以上だ」
騎士が扉を開く。
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王宮を出る。
石畳が光っている。
レインは息を吐いた。
「思ったより、ちゃんと聞かれたな」
アクセルが言う。
「政治は確認が多い」
ノアが続ける。
ここちゃんが、きゅる、と鳴く。
むぎが小さくキュと返す。
三日後。
王との謁見。
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