報告と問い(後半)
王都の宿。
夜。
窓の外は静かだ。
街灯の光が石畳に落ちている。
部屋の中は落ち着いていた。
アクセルは壁にもたれて腕を組んでいる。
むぎはレインの胸ポケットで丸くなっていた。
小さな体がゆっくり上下している。
ここちゃんはベッドの上。
白い毛を整えている。
ノアが静かに口を開いた。
「レイン」
レインが振り向く。
「ん?」
ノアの視線はここちゃんに向いていた。
「回復能力については、戦闘中にも確認している」
少し間。
「だが、石化解除は別だ」
空気がわずかに張る。
「説明してほしい」
声は冷静だった。
責めてはいない。
純粋な確認だ。
レインが頭をかく。
「説明って言われてもな」
ここちゃんが小さく鳴く。
きゅる。
ノアが続ける。
「石化は呪詛系の状態異常だ」
「通常は高位神聖魔法でしか解除できない」
「それも詠唱と術式を必要とする」
一拍。
「だが今回は」
「詠唱なし」
「術式反応なし」
「即時解除」
レインは苦笑する。
「俺も知らなかった」
ノアの眉がわずかに動いた。
「知らなかった?」
「できるって、今日初めて知った」
レインはここちゃんを見る。
「なあ?」
ここちゃんは首を傾げる。
ノアが静かに言う。
「魔力の流れも既存の神聖系とは違う」
「構造が確認できなかった」
レインが肩をすくめる。
「うちの子は、ちょっと特別なんだ」
ノアの視線がわずかに鋭くなる。
「“特別”では説明にならない」
レインの表情が少しだけ真面目になる。
「理論は分からない」
間。
「でも」
「俺にとっては家族だ」
それだけ言う。
部屋が静まる。
ノアがここちゃんを見る。
ここちゃんは、きゅる、と鳴いた。
白い耳がゆっくり動く。
ノアは小さく息を吐く。
「……分かった」
「今はそれでいい」
視線は消えない。
観察は続いている。
レインはここちゃんを撫でた。
「可愛いだろ?」
アクセルが横で笑う。
「それは否定できないな」
ノアは一瞬だけ目を逸らす。
「……否定はしない」
部屋の空気が、少しだけ緩んだ。
夜は静かに続いていた。




