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共用台所


 翌朝。


 魔導配達箱から届いた朝食を食べ終え、使った食器を厨房へ戻す。


 ヴァルカン行きの列車は明日の朝だ。


「今日はどうする?」


 テラが尋ねる。


「特に行くところはないな」


 古い記録も見た。


 北へ向かう装備も揃えた。


 列車の切符もある。


 あとは明日の朝、駅へ向かえばいい。


「なら、今日は準備しながらゆっくりでいいんじゃないか?」


「ああ。そうするか」


 ここちゃんは居間の敷物の上で牧草を食べている。


 きゅる。


 むぎも自分の場所で餌を抱えていた。


 キュ。


 移動が続く前に、二匹にもゆっくりしてもらった方がいい。


「そうだ」


 俺は長椅子の横にある案内冊子を見る。


「共用台所、まだ使ってないな」


「使うのか?」


 テラが尋ねる。


「リイス」


「ああ」


 グランザで買ったまま、まだ自分では料理していない。


 明日は朝から夜まで列車。


 今日くらいは、宿でのんびり料理するのも悪くない。


「昼、作ってみる?」


 テラが言う。


「そのつもり」


「何を作るんです?」


 カインが尋ねる。


「まだ決めてない」


「決めてから言えよ」


 テラが笑った。


⸻


 昼前。


 ここちゃんとむぎは部屋で休ませることにした。


 ノアが居間に残り、二匹の様子を見てくれる。


「何かあったら呼んで」


「ああ」


 俺たちは必要な食材を持って、同じ階にある共用台所へ向かった。


 台所は思ったより広かった。


 いくつかの調理台。


 水場。


 炉。


 鍋や包丁などの調理器具も揃っている。


 宿泊客が自分で持ち込んだ食材を料理できるようになっていた。


「高い宿なのに、自分で料理する場所まであるんだな」


 テラが周囲を見る。


「長く泊まる冒険者もいるんじゃないか?」


 毎日、宿の料理を食べたいとは限らない。


 自分たちで手に入れた食材を使いたい時もあるだろう。


「さて」


 持ってきたリイスを卓へ置く。


 グランザで食べたものと同じ、細長い白い粒だ。


「どうするんです?」


 カインが覗き込む。


「まず炊いてみる」


「分かるのか?」


「店で水を入れすぎるなって聞いた」


「それだけ?」


「それだけ」


 テラが少し不安そうな顔をした。


「失敗しても食えるだろ」


「まあな」


⸻


 鍋へリイスと水を入れる。


 日本で食べていた米とは違う。


 グランザで食べた時も粘りが少なく、一粒ずつが離れていた。


 だから最初から同じ炊き方をするつもりはない。


 火加減を見ながら、少しずつ様子を確認する。


「結構匂いは米っぽいな」


「分かるのか?」


 アクセルが尋ねる。


「ああ。俺には懐かしい匂い」


 炊き上がったところで蓋を開ける。


 湯気が上がった。


 粒は潰れていない。


「いいんじゃないか?」


 テラが覗き込む。


「たぶん」


 少し食べてみる。


 日本の米ほど柔らかくも、粘りもない。


 だが、グランザで食べた時と同じ食感だ。


「大丈夫そう」


「なら食おう」


「まだだ」


 アクセルを止める。


「そのままでもいいけど、せっかくだから何か作る」


 持ってきた野菜と肉を切る。


 香辛料も少し。


「炒めるのか?」


「そのつもり」


 グランザでは魚介と一緒だった。


 今回は肉と野菜で試す。


 炒めた具へリイスを加え、全体を混ぜる。


 最後に味を整える。


「こんなもんかな」


 テラが一口味を見る。


「うまいぞ」


「本当?」


「ああ。粒がくっつかないから、炒めるなら使いやすいな」


「だよな」


 こういう料理には合う。


「アクセル」


「待ってる」


「珍しいな」


「まだ食うなって言われた」


「ちゃんと聞いてたのか」


⸻


 出来上がった料理を部屋へ持ち帰る。


 ノアは長椅子へ座っていた。


 ここちゃんはその近くの敷物で身体を伸ばしている。


 むぎも自分の場所で静かだった。


「何もなかった?」


「ああ」


「ありがと」


 大きな卓へ料理を並べる。


「リイス?」


 ノアが尋ねる。


「ああ。作ってみた」


 全員で席へ着く。


 一口食べる。


「グランザで食べたのとは違いますね」


 カインが言う。


「具が違うからな」


「でも、これはこれで美味しいです」


「よかった」


 アクセルは黙って食べている。


「どう?」


「うまい」


「それだけか」


「もう一杯ある?」


「あるよ」


 それで十分らしい。


 テラも食べながらリイスを見る。


「持って帰ったら、また使えそうだな」


「ああ」


 日本の米とは違う。


 だが、無理に同じ物として扱う必要もない。


 リイスにはリイスに合った料理がある。


 少しずつ使い方を探せばいい。


⸻


 昼食のあと。


 明日の出発に向けて荷物を確認した。


 列車で使いそうな物は、それぞれすぐ取り出せるようにしておく。


 ここちゃんとむぎの食事。


 水。


 途中で食べる物。


 ヴァルカンへ着くのは夜になる。


「途中で食う分は、今日のうちに用意しておくか」


 テラが言う。


「ああ」


 共用台所も使える。


 明日の昼に食べられる物を簡単に作っておけばいい。


「宿でも頼めるんじゃないですか?」


 カインが案内冊子を見る。


「昼は追加で用意できるって書いてあります」


「じゃあ頼もう」


「料理した直後なのに?」


 テラが言う。


「明日の分まで作るの面倒だろ」


「それはそうだな」


 意見はすぐまとまった。


 宿へ明日の昼食を頼んでおく。


 列車の中で食べやすい物にしてもらえばいい。


⸻


 午後は、ほとんど部屋で過ごした。


 洗濯に出していた物も、畳まれた状態で魔導配達箱から戻ってきた。


「本当に畳んである」


 テラが袋から服を出す。


「楽ですね」


 カインが自分の分を受け取った。


 明日使う物以外を片づける。


 夕方には個室の洗い場へ行き、順番に身体も洗った。


 あとは夕食を食べて寝るだけだ。


 ここちゃんを撫でながら、明日のことを考える。


 朝にボルカニアを出る。


 夜にはヴァルカン。


 その街で、北部の昔の土地についてもう一度聞く。


 そこで手がかりが見つかれば、その先を決める。


 なければ。


 次の候補はマハルだ。


 きゅる。


「まずはヴァルカンだな」


 ここちゃんの頭を撫でる。


 むぎも近くで餌を抱えている。


 キュ。


 ボルカニアで過ごす最後の一日は。


 久しぶりに、ゆっくりと過ぎていった。

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