生活魔導具
金剛炉の館へ戻ったのは、午後も少し過ぎた頃だった。
部屋へ入ると、まずここちゃんを壁際の敷物へ下ろす。
きゅる。
むぎも胸元から出した。
キュ。
「今日は結構歩いたな」
テラが長椅子へ腰を下ろす。
「ああ。ちょっと休もう」
朝から魔導具ギルドへ行き、そのあと旅装備を揃えた。
ここちゃんとむぎにも水と食事を用意し、俺たちもしばらく部屋で休む。
長椅子の横には、昨日から置かれたままの案内冊子。
その向こうには魔導配達箱。
ボルカニアへ来てまだ二日目だが、この宿の設備にも少し慣れてきた。
「このあと、まだ出るのか?」
テラが尋ねる。
「一か所だけ見たい」
「どこだ?」
「生活魔導具の店。散湯器を見ておきたい」
「ああ」
テラが頷く。
鉄床亭の洗い場で使った散湯器。
あれはテラも気に入っていた。
「持ち帰れる型があるなら、今のうちに見ておくのはいいな」
「だろ?」
「では、少し休んでから行きましょうか」
カインが言う。
「ああ」
⸻
しばらくしてから、再び宿を出た。
ここちゃんは俺の腕の中。むぎは胸元にいる。
向かったのは、宿で教えてもらった生活魔導具を扱う店だった。
店内には、グランザでも見たような日用品が並んでいる。
だが、やはり種類は多い。
「散湯器は……」
「あれじゃないか?」
テラが壁際を示す。
「あった」
鉄床亭で使った物と似た形の散湯器が並んでいた。
俺たちが近づくと、店員のドワーフが声をかけてくる。
「散湯器か?」
「ああ」
カインが一歩前へ出る。
「この型は、中央大陸へ持ち出しても問題ありませんか?」
「それなら大丈夫だ」
「よかった」
アイクから聞いて以来、ドワーフ大陸で魔導具を買う時は確認することにしている。
「取り付けは難しい?」
テラが尋ねた。
「水を引ける場所なら、それほどでもない。取り付け方も一緒に渡す」
「なら問題なさそうだな」
テラが俺を見る。
「買うんだろ?」
「そのつもり」
「俺も賛成だ」
散湯器を一つ購入する。
拠点へ戻ったあと、どこへ取り付けるかはその時考えればいい。
⸻
せっかくなので、そのまま店内を見て回る。
見覚えのある生活魔導具もあれば、初めて見る物もある。
「これは?」
カインが棚の上を見た。
金属製の小さなポットだ。
取っ手と注ぎ口があり、底の近くに小さな魔石が埋め込まれている。
「湯を沸かす魔導具だ」
店員が答える。
「水を入れて動かせば、しばらくすれば湯になる」
「やかんみたいなものか」
俺が覗き込む。
火に掛ける必要がない。
「野営でも使えるのか?」
テラが尋ねる。
「ああ。魔石があれば使える」
「それは便利ですね」
カインが言う。
少量の湯が欲しいだけなら、わざわざ火を起こす必要がなくなる。
飲み物にも使えるし、ここちゃんやむぎの世話で温かい水が必要になった時にも使える。
「これも一つ買っとくか」
「使い道はありそうだな」
テラも反対しなかった。
魔導ポットも購入する。
⸻
そのほかの棚も見ていく。
一定の温度を保つ鍋。
決めた量の水を出す魔導具。
植物へ少しずつ水を与える器。
グランザで見た物と似た魔導具もあった。
便利そうな物は多い。
だが、必要な物まで全部買う必要はない。
「この辺は見るだけでいいな」
テラが棚を眺める。
「ああ」
「グランザでもかなり見ましたしね」
カインも頷く。
ボルカニアだからといって、何もかも買って帰るわけではない。
散湯器と魔導ポット。
今日はそれで十分だ。
⸻
店を出る頃には、夕方が近づいていた。
「戻るか」
テラが言う。
「ああ」
今日は朝から随分歩いた。
俺はここちゃんを抱き直す。
きゅる。
胸元では、むぎが小さく動いた。
キュ。
「明日は古い記録を見に行くか?」
テラが尋ねる。
「そうだな。そっちも見ておきたい」
「ヴァルカン行きまで、あと二日ですね」
カインが言う。
「ああ」
魔導具も見た。
北へ向かう装備も揃った。
残っている時間で、ボルカニアにある古い記録も確認しておきたい。
俺たちは金剛炉の館へ向かって歩き出した。




