灼熱への備え
魔導具ギルドを出たあと、近くの店で昼を済ませた。
ここちゃんは俺の膝の上。むぎは胸元から時々顔を出している。
「このあと、どうする?」
テラが尋ねる。
「装備を見ておきたい」
「北へ行くための?」
「ああ。というより、その先に備えてだな」
ゴルドラから聞いたのは、古い地図の印が大まかに北部へ当たりそうだということだけだ。
まず向かうのはヴァルカン。
ただ、さらに北西の山側には、湯や蒸気が出るマハルという街もあるらしい。
そこまで行くことになるかは、まだ分からない。
「必要になってから探すより、ボルカニアにいるうちに見ておいた方がいいだろ」
「それはそうだな」
テラが頷く。
「この街なら、旅用の魔導具も揃いそうですしね」
カインも同意する。
「じゃあ、店を探すか」
⸻
魔導具ギルドで聞くと、冒険者向けの装備を扱う店をいくつか教えてもらえた。
その中でも、暑い地域や鉱山へ向かう者がよく利用するという店へ向かう。
中へ入ると、グランザで見た生活魔導具の店とはかなり違っていた。
壁には外套や靴、棚には水筒や手袋。床には大きな布や旅用の魔導具が並んでいる。
「北の山側へ行くかもしれない」
テラが店員のドワーフへ説明する。
「蒸気や熱の強い場所に入る可能性もある。必要な物を見たい」
「マハルの方か?」
「まだ行くと決まったわけじゃない」
「なら、ほかでも使える物を中心に見た方がいいな」
店員が最初に持ってきたのは、薄手の外套だった。
「冷風機能付きのマントだ」
テラが手に取る。
「これで涼しくなるのか?」
「内側に弱い風が流れる。暑い場所じゃだいぶ違うぞ」
五人分を見せてもらう。
火山地帯だけでなく、砂漠や暑い鉱山でも使われるらしい。
「これなら持ってても無駄にはならないな」
「ああ」
五着購入することにした。
次は耐熱靴。
普通の旅靴より底が厚く、熱い岩場を歩くための物だ。
「これも五人分ですね」
カインが言う。
「ああ」
厚手の手袋と、蒸気を避ける時に顔や首を覆える布も選んだ。
⸻
「水は多めに持っとけ」
店員が今度は水入れを並べる。
「冷やす道具があっても、水は必要だ」
「それはそうだな」
五人分の水入れ。
それとは別に、ここちゃんとむぎ用にも使いやすい物を選ぶ。
さらに、入れた水を冷たいまま保ちやすい冷却水筒を二つ。
「このくらいあれば十分か」
テラが言う。
「ああ」
次に見せてもらったのは、高耐熱のマットだった。
「熱い岩の上でも使える。テントの下に敷く奴もいるな」
「二つのテントに使うなら二枚か」
「休憩用にもあった方がいいですね」
カインが言う。
「予備も含めて四枚にするか」
高耐熱マットを四枚。
さらに、テントの中で使える冷風扇も見せてもらう。
「これは何台いる?」
「テントが二つなら二台でいいんじゃないか?」
テラが言う。
「予備も一台あると安心ですね」
「じゃあ三台」
交換用の魔石も一緒に購入する。
⸻
「そうだ」
テラが思い出したように言う。
「結界具」
「あ」
ドランから貰った野営用の結界魔導具。
四本の杭を地面へ打ち、中央に本体を置いて使う。
「岩場だと杭が刺さらないな」
「そうですね」
カインが頷く。
店員へ相談すると、岩場でも杭を固定できる台を出してくれた。
「こういうのがある」
「四本とも使うなら、四つ必要だな」
テラが言う。
「予備も一つ買っておきましょう」
固定台は五つ。
これなら四本すべての杭に使える。
「これで岩場でも結界は張れそうだな」
「ああ」
⸻
最後に。
俺は腕の中のここちゃんを見る。
もし本当に暑い山道を歩くことになったら、このままずっと抱えて移動するのは難しい。
「動物を運ぶ物もある?」
「大きさは?」
「この子と」
ここちゃんを見せる。
「もう一匹はこれくらい」
胸元のむぎも見せた。
キュ。
「別々に入れたい」
「なら背負い籠がある」
大小二つを見せてもらう。
ここちゃん用と、むぎ用。
中で身体が傾きすぎないよう作られていて、外から様子も確認できる。
「これなら山道でも使えそうだな」
テラが大きい方を見る。
「ああ」
「暑い場所なら、小型の冷風扇も付けられるぞ」
店員が小さな魔導具を持ってくる。
「それも二つ」
それぞれの背負い籠に一つずつ。
交換用の魔石も購入した。
実際に使うかは、道や気温を見て決めればいい。
ここちゃんは抱えていた方が落ち着くこともあるし、むぎなら胸元にいる方が楽な場所も多い。
ただ、両手を空けた方が安全な道では背負い籠があった方がいい。
⸻
会計を済ませる。
冷風機能付きのマントが五着。
耐熱靴が五足。
水入れと、ここちゃんとむぎ用の物。
冷却水筒が二つ。
厚手の手袋と蒸気避けの布。
高耐熱マットが四枚。
冷風扇が三台と交換用の魔石。
結界杭用の固定台が五つ。
ここちゃんとむぎ用の背負い籠と、小型冷風扇が二つ。
「結構買ったな」
テラが言う。
「ああ。でも、必要になりそうな物は揃っただろ」
「そうですね」
カインが購入した物を確認する。
それぞれ魔法袋へ片づけていく。
《高温環境対応装備、増加》
(見れば分かる)
《行動可能範囲、拡大》
(まだマハルに行くって決まってないぞ)
《準備状態、良好》
(気が早い)
返事はない。
「くさえもんか?」
テラが尋ねる。
「ああ。準備はできたらしい」
「誰目線だよ」
「俺も知らん」
店を出る。
まず向かうのはヴァルカン。
その先へ進むかどうかは、まだ分からない。
それでも、必要になった時に動けるだけの準備はできた。
ヴァルカン行きまで、あと三日。
北へ向かう準備は、少しずつ整ってきた。




