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魔導具ギルド


 翌朝。


 目を覚ますと、ここちゃんは俺の寝台の上で丸くなっていた。


 きゅる。


「おはよう」


 頭を撫でると、耳がゆっくり動く。


 むぎも寝床の中で動き始めていた。


 キュ。


 昨夜と同じように二匹の食事と水を用意する。


 その間にテラたちも起き始め、全員が居間へ集まったところで。


 ピー。


「来たな」


 テラが魔導配達箱を見る。


「朝飯か」


 扉を開けると、中には大きな盆が入っていた。


 朝食は昨日の夕食と同じく、かなり豪華だ。


「これ、慣れると楽だな」


 テラが盆を卓へ運ぶ。


「ああ。食堂まで行かなくていいしな」


 二匹の様子を見ながら食事ができるのも助かる。


 全員で卓を囲む。


「今日はどうする?」


 カインが尋ねた。


「古い記録を見るのは?」


 テラが俺を見る。


「それも行きたい。ただ、三日あるからな」


 ヴァルカン行きの列車は四日後。


 今日を含めて、まだ三日間はボルカニアにいる。


「昨日、街を歩いてて気になったところがある」


「どこ?」


 ノアが尋ねる。


「魔導具ギルド」


 グランザでも生活魔導具はかなり見た。


 だが、ガンダルフの話ではボルカニアには職人や研究者も多く集まっている。


「魔導具の店じゃなくて、ギルドの方か」


 テラが言う。


「ああ。何してるところなのか見てみたい」


「いいんじゃないか?」


 アクセルも異論はないらしい。


「では今日は、そちらへ行ってみましょうか」


 カインが言う。


「古い記録は明日でも見られますし」


「ああ。それでいこう」


 食事を終え、皿を盆へ戻す。


 配達箱へ入れて扉を閉め、丸いボタンを押すと、ゴトゴトと音を立てながら盆が下へ降りていった。


 まだ二回目なのに。


 もう少し普通のことになり始めている。


⸻


 出かける前に、洗濯も頼んでみることにした。


 昨日受付でもらった、部屋番号付きの袋へ着替えを入れる。


「これも同じ箱なんだよな?」


 テラが案内冊子を確認する。


「ああ。食事が入ってない時に送れって書いてある」


「そりゃそうだろ」


 アクセルが言う。


「料理と一緒に洗濯物が届いたら嫌だからな」


 カインが笑う。


 袋を魔導配達箱へ入れ、扉を閉じる。


 横のボタンを押す。


 ゴト。


 袋が下へ降りていった。


「これで洗って、乾かして、畳んで戻ってくるのか」


「らしい」


「宿にいる間、自分で洗濯しなくていいってことだな」


 テラが言う。


「そのために少し高いんだろうな」


 便利ではある。


 だが、全部が勝手に済むわけではない。


 洗う物を袋へ入れて送る。


 戻ってきたら自分たちで片づける。


 その間の面倒な作業だけを宿側が引き受けてくれる。


 こういうところも、この宿が高位冒険者向けと言われる理由なのだろう。


 ここちゃんを抱き上げる。


 むぎは胸元へ。


「じゃあ行くか」


⸻


 金剛炉の館を出て、大通りへ向かう。


 昨日は駅と冒険者ギルドの間しかほとんど見ていなかったが、改めて歩くとグランザとの違いがよく分かる。


 魔導具を扱う店だけではない。


 部品らしい物だけを並べた店や、工房の名前が書かれた看板も多かった。


「完成品だけ売ってるわけじゃないんだな」


 テラが店先を見る。


「職人が多い街なんでしょうね」


 カインが答える。


 金属の筒。


 小さな歯車。


 加工された魔石。


 何に使うのか分からない部品まで並んでいる。


 グランザで見たのは、俺たちみたいな客でも使える完成した生活魔導具が中心だった。


 ここでは、その前の段階まで街の中に見えている。


 しばらく歩くと、大きな建物が見えてきた。


 入口の上には、魔石と歯車を組み合わせた意匠。


 その下に。


『ボルカニア魔導具ギルド』


 と書かれている。


「ここか」


 中へ入った。


⸻


 冒険者ギルドとは、かなり雰囲気が違った。


 依頼板もない。


 武器を持った冒険者が集まっているわけでもない。


 代わりに、壁にはいくつもの魔導具の図や部品が展示されている。


 受付の前では、職人らしいドワーフが書類を持って話していた。


 奥には人間の姿もある。


「ドワーフだけじゃないんだな」


 テラが小声で言う。


「弟子や研究者もいるんじゃないか?」


 ガンダルフからも、ボルカニアには外から来た職人や研究者がいると聞いている。


 受付が空くのを待ち、カインが声をかけた。


「見学だけでも大丈夫でしょうか」


「構わんよ」


 受付のドワーフが答える。


「初めてか?」


「はい。中央大陸から来ました」


「なら展示を見ていくといい。分からんことがあれば聞け」


 あっさりしている。


「ここって、魔導具を売ってるギルドなのか?」


 テラが尋ねた。


「販売も関わるが、それだけじゃない」


 受付のドワーフが答える。


「職人や工房の登録。魔導具の安全確認。新しく作った物の相談。研究してる連中の取りまとめ。そういうのが主だな」


「職人側のギルドなんですね」


 カインが言う。


「そう考えりゃ分かりやすい」


 なるほど。


 冒険者ギルドが冒険者の仕事をまとめるなら。


 こっちは魔導具を作る側をまとめているらしい。


⸻


 展示されている魔導具を見ていく。


 古い物。


 今も使われている物。


 形の違う同じ用途の物。


 一つの道具だけでも、いくつもの型が並んでいた。


「同じ物なのに違うんだな」


 テラが二つの魔導具を見比べる。


「作った時期が違う」


 近くにいた職人が教えてくれた。


「古い方は魔石の消費が多い。新しい方は同じ仕事をしても長く持つ」


「性能が上がってるのか」


「ああ。それだけじゃねぇぞ。小さくしたり、壊れにくくしたり、使いやすくしたりな」


 別の展示を見る。


 一見すると、ほとんど同じ。


 だが説明を読めば、中の構造や使う魔石の大きさが違うらしい。


「こういう改良をずっとやってるわけか」


「当たり前だ」


 職人が言う。


「不便なら直す。壊れるなら丈夫にする。魔石を食うなら減らす。それだけだ」


 グランザの店で聞いた言葉を思い出す。


 困り事の数だけ、生活魔導具は増える。


 ここではさらに。


 作ったあとも、ずっと改良が続いているらしい。


⸻


 奥へ進むと、一角だけ人が多かった。


「何かやってるのか?」


 アクセルが見る。


 壁には、大きな札が何枚も並んでいる。


 その下に、魔導具と職人の名前。


「賞?」


 テラが札を読む。


「魔導具競技会……みたいですね」


 カインが隣の説明を見る。


 受付で聞いてみると、定期的に職人が作った魔導具を持ち寄り、出来を競う催しらしい。


「強さを競うのか?」


 アクセルが尋ねる。


「物による」


 受付のドワーフが答えた。


「生活用なら使いやすさや魔石の消費。加工用なら精度。安全性も見る。何を作ったかで評価するところは違う」


「戦うわけじゃないんだな」


「何で魔導具を戦わせるんだ」


 テラがアクセルを見る。


「強い方が勝つのかと思った」


「全部武器じゃないぞ」


 展示されている受賞品も、派手な物ばかりではなかった。


 小さな生活魔導具。


 工房で使う道具。


 運搬に使う物。


 説明を読まなければ、何がすごいのか分からない物まである。


「こういうのが評価されるんですね」


 カインが小さな魔導具を見る。


「便利だからな」


 俺が言う。


 大きな魔法が使えるとか。


 派手な力が出るとか。


 そういう物だけが技術じゃない。


 毎日使う物を少し楽にする。


 同じ仕事を、少ない魔石でできるようにする。


 その積み重ねが。


 金剛炉の館みたいな宿にも繋がっているのだろう。


⸻


 魔導具ギルドを出る頃には、昼が近くなっていた。


「思ったより面白かったな」


 テラが言う。


「ああ」


 魔導具そのものは中央大陸にもある。


 それでも。


 この大陸では、それを作る職人や改良する仕組みまで大きな文化になっている。


「昼はどうします?」


 カインが尋ねる。


「宿に戻ってもいいけど……」


 俺は通りの先を見る。


 工房。


 魔導具の店。


 まだ見ていないものが、いくらでもある。


「せっかくだし、この辺で食うか」


「賛成」


 テラが頷く。


 ヴァルカン行きまで、あと三日。


 ボルカニアで見る物は。


 まだまだありそうだった。

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