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ボルカニア


 列車を降りる。


 俺はここちゃんを抱き直し、むぎは胸元に入れたまま人の流れへ続いた。


 ホームには、俺たちと同じ列車から降りた客だけでなく、別の乗り場へ向かう人も多い。


 グランザの駅も大きかったが、ここはさらに広かった。


 線路が何本も並び、少し離れた場所には別の列車が停まっている。頭上の案内板にも、いくつもの行き先が書かれていた。


「でかいな」


 テラが周囲を見回す。


「ガンダルフが中心の街って言ってた意味が分かりますね」


 カインも駅の奥へ目を向ける。


「ああ。人も多いな」


 ドワーフが一番多いのは変わらないが、それだけではない。


 人間や獣人の姿もあり、数は少ないがエルフの姿も見える。


 グランザが外から来る人間の玄関口なら、ここは大陸の中から人と物が集まる場所なのだろう。


「まずギルドでいいよな?」


 テラが尋ねる。


「ああ。紹介状もあるしな」


「場所を聞いてきます」


 カインが近くの駅員へ向かった。


 俺はここちゃんを抱えているし、むぎも胸元にいる。


 こういう時にカインが動いてくれるのは助かる。


 少しして戻ってきたカインが、駅の出口を示す。


「ここから歩いて、それほど遠くないそうです」


「よし。行くか」


 人の流れに混じり、駅を出た。


⸻


 外へ出て、最初に感じたのは街の広さだった。


 駅前から何本もの大きな通りが伸びている。


 建物もグランザより大きく、三階や四階まである物が珍しくない。店先には魔導具が並び、少し離れた工房らしい建物からは金属を叩く音も聞こえてきた。


「グランザより、さらにごちゃごちゃしてるな」


 アクセルが言う。


「人が多いだけじゃないな」


 テラが通りの先を見る。


「工房も店も多い。駅を中心に街が広がってる感じだ」


「ガンダルフさんが、職人や研究者も集まるって言ってましたからね」


 カインが答える。


 ただ、無秩序というわけでもない。


 通りは広く、人の流れもある程度分けられている。途中には、駅で見たものと似た案内板まで立っていた。


「助かるな、これ」


 テラが案内板を確認する。


「初めて来た奴が多いんだろうな」


「俺たちもその一組だ」


 ここちゃんは腕の中から周囲を眺め、むぎも時々胸元から顔を出している。


 きゅる。


 キュ。


 人通りが多い。


 今日は二匹とも、このまま俺が持っていた方がよさそうだ。


⸻


 しばらく歩くと、冒険者ギルドの看板が見えた。


 グランザのギルドより大きい。


 中へ入ると受付も一つではなく、依頼板の前には冒険者が集まり、奥の卓では何人かが地図を広げて話していた。


「ここも人が多いな」


「中央の街だからでしょうね」


 カインが空いている受付を見つける。


「私が行きます」


「頼む」


 俺たちはそのまま受付へ向かった。


 対応したのは、ドワーフの女性だった。


「ようこそ、ボルカニア冒険者ギルドへ。今日はどうしました?」


 カインが鞄から封書を取り出す。


「グランザの冒険者ギルドから紹介状を預かっています。ガンダルフさんから、こちらへ伺うようにと」


「ガンダルフさんから?」


「はい」


 封書を渡す。


 女性は表と裏の印を確認してから、封を開いた。


「少々お待ちください」


 中身へ目を通す。


 俺はその間、ここちゃんの背中を撫でながら待った。


 きゅる。


 少しして、受付の女性が顔を上げる。


「古い地図について調べているんですね」


「ああ」


 俺が答える。


「古い地図に残された印が示す場所について調べてる。昔の地形とか、古い地図に詳しい人がいれば話を聞きたい」


「なるほど」


 女性は少し考えたあと、紹介状へもう一度目を落とした。


「それでしたら、心当たりがあります」


「本当か?」


「はい。ゴルドラさんという方です。古い地図や地形に詳しい方で、この街にいます」


 テラが少し身を乗り出す。


「会えるか?」


「確認してみます。少しお待ちいただけますか?」


「お願いします」


 カインが答えた。


 受付の女性は一度奥へ下がっていった。


⸻


 待合用の卓へ移る。


 俺はここちゃんを膝へ乗せ、むぎは胸元にいるままにした。


「いきなり詳しい人が見つかるとはな」


 テラが言う。


「紹介状があってよかったですね」


 カインが答える。


「ああ」


 待っている間、テラが壁の方へ目を向けた。


「レイン。あれ、この大陸の地図じゃないか?」


「ん?」


 壁には、大きな地図が掛けられていた。


「見てみるか」


 俺はここちゃんを抱き上げる。


 テラとカインが先に地図の前へ向かい、アクセルとノアも続いた。


 今まで見てきたものより、かなり詳しい。


 中央付近にボルカニア。


 南東側にグランザ。


 そこから各地へ線が伸び、街や地域の名前が書かれている。


「ドゥルガルガもありますね」


 カインが西側を示す。


「ああ。グランザの駅で聞いた鉱山の方だな」


 テラがその周辺を見る。


「その北側にある大きな街がフィヨルガルドか」


「東はアイアンアンカーですね」


 カインが今度は反対側を見る。


「北はヴァルカン」


 アクセルが地図を見ながら読む。


「南はヘルオスだな」


 テラが続ける。


 名前と位置を確認していると、後ろから声がした。


「この大陸は、大きく五つの地域に分けて考えることが多いんですよ」


 振り返る。


 さっきの受付の女性だった。


「五つ?」


 テラが尋ねる。


「はい。中央のボルカニア。それから北、南、西、東です」


 女性が地図の前まで来る。


「北部の中心がヴァルカン。南部がヘルオス。西部がフィヨルガルド。東部がアイアンアンカーです」


「それぞれ別の国なんですか?」


 カインが尋ねる。


「いいえ。同じ大陸ですよ」


 女性は首を横へ振った。


「ただ、それぞれの地域に代表者がいます。大陸全体に関わる話をする時は、その代表者たちがボルカニアへ集まります」


「王はいないのか?」


 アクセルが聞く。


「いません」


「へえ」


 中央大陸なら、王都があって王がいる。


 こっちは根本から仕組みが違うらしい。


「だからボルカニアが中心なんだな」


 テラが地図を見る。


「そうですね。政治だけではなく、交通や研究、工房なんかもここへ集まりやすいです」


 ガンダルフが、大陸の中心という意味では首都みたいなものだと言っていた。


 その意味が、ようやく分かってきた。


「地域ごとに特色も違うんですか?」


 カインが尋ねる。


「かなり違いますよ」


 女性が北側を示す。


「北部のヴァルカン周辺は水が豊かで、農業が盛んです。リイスもあの辺りで多く作られています」


「ああ。グランザで食べたやつだ」


 俺は地図を見る。


 あれは北部から来ていたらしい。


 次に女性の指が南へ移る。


「南部のヘルオスは砂漠地帯です。果物が特産ですね」


「砂漠で果物か」


 テラが少し意外そうに言う。


「ええ。南部でしか採れない物もあります」


 今度は西。


「西部は鉱山地域です。中心になるのがフィヨルガルドで、鉱石や魔石、金属加工で有名です」


「ドゥルガルガは?」


 カインがその下にある名前を示す。


「フィヨルガルドの鉱山地域にある採掘拠点です。大きな街というより、鉱山で働く人たちのための場所ですね」


「なるほど」


 最後に女性が東側を示す。


「アイアンアンカーは船舶工業の街です。大きなドックや工房が集まっていて、船を造ったり修理したりしています」


「グランザとは役割が違うんですね」


 カインが言う。


「ええ。グランザは人や物が出入りする交易港。アイアンアンカーは船そのものを扱う工業港、という方が近いです」


「分かりやすいな」


 テラが頷く。


 中央のボルカニア。


 北部のヴァルカン。


 南部のヘルオス。


 西部のフィヨルガルドと、その鉱山地域にあるドゥルガルガ。


 東部のアイアンアンカー。


 こうして地図を見ながら聞くと、大陸全体の形がようやく少し見えてきた。


⸻


「それと」


 受付の女性が俺たちを見る。


「ゴルドラさんと連絡が取れました」


「会えそうか?」


 テラが尋ねる。


「はい。こちらへ来てくださるそうです」


「ここに?」


「ええ。少ししたら到着すると思います」


「助かります」


 カインが頭を下げる。


「それまで、こちらでお待ちください」


「分かった」


 俺たちは待合の卓へ戻った。


 ここちゃんを膝へ乗せる。


 きゅる。


 胸元では、むぎが小さく動いた。


 キュ。


 ボルカニアへ着いて、まだそれほど時間は経っていない。


 それでも、この大陸がどう分かれているのか。


 ボルカニアがなぜ中心なのか。


 グランザにいた時より、少しだけ見えてきた。


 そして。


 古い地図について話を聞ける相手も、もうすぐここへ来るらしい。


 俺たちはゴルドラを待つことにした。

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