市場の買い物
翌朝。
ここちゃんとむぎの食事と水を済ませ、俺たちも鉄床亭で朝食を取った。
今日は市場へ行く。
昨日食べたリイスを買うのが、一番の目的だ。
「そのあと駅だな」
テラが言う。
「ああ。切符も取っておこう」
ボルカニアへ向かう日を決めれば、グランザでの予定もほぼ終わる。
ここちゃんを抱き上げる。
きゅる。
むぎは胸元へ。
キュ。
「じゃあ行くか」
宿を出た。
⸻
グランザの市場は、朝から賑わっていた。
港から届いた魚介。
野菜。
果物。
穀物。
乾物。
香辛料。
さらに、大陸の内側から列車で運ばれてきた物も並んでいる。
「リイスはどこだ?」
テラが辺りを見る。
「穀物の店を探せばあるだろ」
大きな袋を並べた店をいくつか覗く。
小麦。
大麦。
豆。
見たことのない穀物。
その中に。
「あった」
細長い白い粒が見えた。
昨日食べた物と同じだ。
「これ、リイスだよな?」
「ああ」
店主のドワーフが頷く。
「どれくらいいる?」
袋の中を見る。
少し買うつもりだったが、無限収納へ入れておけば保存には困らない。
「まず、このくらい」
量を伝える。
「料理するのか?」
「やってみようと思ってる」
「水を入れすぎるなよ。柔らかくなりすぎる」
「分かった」
昨日の料理も、粒はしっかり残っていた。
日本の米と同じように炊けばいいわけではなさそうだ。
代金を払い、包んでもらう。
人目のある市場なので、そのまま袋を持つ。
「戻ってから収納だな」
テラが小声で言う。
「ああ」
⸻
そのあとも市場を歩く。
むぎ用に麦を少し。
ここちゃん用には、新鮮な葉野菜を選ぶ。
きゅる。
俺の腕の中から野菜へ鼻を向けた。
「まだ食うなよ」
当然届かない。
だが、匂いは分かるらしい。
「こっちもいるか?」
ノアが別の葉野菜を見る。
「それも少し買おう」
旅の途中でも使える。
数種類を選び、まとめてもらった。
むぎは胸元から顔だけを出し、麦の袋へ鼻を動かしている。
キュ。
「お前も分かるのか」
指先で頭を撫でる。
《食料在庫、増加》
(急にどうした)
《リイス、新規登録》
(そこまで管理してるのか?)
《麦、葉野菜、追加確認》
(買い物してるからな)
《収納量への影響、軽微》
(まだ収納してないぞ)
少し間が空く。
《訂正。購入量への影響、軽微》
(そこ訂正するんだ)
くさえもんは、それきり黙った。
「また何か言ってた?」
テラが俺を見る。
「ああ。買った物を数えてた」
「暇なのか?」
「知らん」
俺にも分からない。
⸻
市場の奥へ進むと、今度は香辛料の匂いが強くなった。
「ちょっと見ていいか?」
足を止める。
「やっぱり止まったな」
テラが言う。
「何が?」
「香辛料の店」
「見るだけだ」
「昨日も魔導具で同じこと言ってたぞ」
「今日は必要な物を買いに来てるからいいだろ」
店先には、小さな袋や瓶が何列も並んでいた。
赤。
黄色。
黒。
茶色。
見慣れた物もあれば、初めて見る物もある。
一つずつ香りを確認していると。
「それはフェルネルだ」
店主が細長い種の入った袋を示した。
「魚に合うぞ」
「魚?」
「ああ。潰して使ってもいいし、そのまま煮込みへ入れてもいい」
少量を手に取らせてもらい、香りを嗅ぐ。
少し甘い。
その奥に、爽やかな香りがある。
「これ、買う」
「早いな」
テラが横から言う。
「使えそうだからな」
魚だけでなく、肉やスープにも合いそうだ。
フェルネルのほかにも、今持っていない物をいくつか選ぶ。
「増えてるぞ」
「使うからいい」
「棚、まだ入るのか?」
「たぶん」
「たぶんか」
拠点の香辛料棚を思い浮かべる。
まだ大丈夫なはずだ。
たぶん。
⸻
香辛料の店を離れる。
「ほかに必要な物は?」
カインが尋ねる。
「今のところは十分かな」
リイス。
麦。
野菜。
香辛料。
ボルカニアへ向かうだけなら、これ以上大量に買う必要はない。
港町だから魚介も気になるが。
それは昨日から何度も食べている。
「じゃあ駅?」
ノアが尋ねる。
「ああ。切符を取っておこう」
市場を出る前に、荷物を持ち直す。
ここちゃんは俺の腕の中。
むぎは胸元。
買った物は、テラとカイン、アクセルがそれぞれ持ってくれている。
「宿へ戻る前に駅へ寄るぞ」
「ああ」
ボルカニアへ向かう準備も。
少しずつ整ってきた。




