↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
229/249

リイス


 鉄床亭へ戻る頃には、ちょうど昼を過ぎていた。


 部屋へ入り、ここちゃんを敷物の上へ下ろす。


 きゅる。


 むぎも胸元から出し、壁際の自分の場所へ戻した。


 キュ。


「午前中だけで結構歩いたな」


 テラが椅子へ腰を下ろす。


「ああ」


 駅。


 魔導列車。


 それから、魔導具の店。


 グランザへ来てから、見る物が多い。


「昼、どうする?」


 アクセルが尋ねる。


「さっきまで街にいたのに、そこだけは忘れないな」


「腹は忘れない」


「それはそうだな」


 昼は簡単に済ませることにした。


 下の食堂でパンとスープ、それに魚を焼いた物を頼み、部屋へ持ってきてもらう。


 ここちゃんとむぎにも昼の分を用意した。


 それぞれが食べ終わったあとは、しばらく何もせずに過ごす。


 ここちゃんは敷物の上で身体を伸ばし、むぎも壁際で静かになった。


 俺も寝台へ腰を下ろす。


 船を降りてから、ほとんど動きっぱなしだった。


 夕食までは、少しゆっくりしてもいい。


⸻


 夕方。


 ここちゃんとむぎの食事と水を済ませてから、全員で一階の食堂へ下りた。


 ここちゃんは俺の腕の中。


 むぎは胸元にいる。


 昨日と同じ壁際の卓へ座った。


「今日は何にする?」


 テラが料理の札を見る。


「おすすめでいいんじゃないか?」


 土地の料理なら、その方が面白い。


 宿の主人へ聞くと、いくつかの料理を選んでくれた。


 魚の香草焼き。


 野菜と肉を煮込んだスープ。


 焼いた根菜。


 それから。


 大きな皿に盛られた、見慣れない穀物料理。


 運ばれてきた瞬間。


 俺はその皿を見た。


「……ん?」


 細長い。


 白い粒。


 一粒ずつが、はっきり分かれている。


 麦とは違う。


 見覚えがある。


「どうした?」


 テラが尋ねる。


「これ」


 皿を指す。


 白い粒には、細かく切った野菜と魚介が混ぜられていた。


 香辛料の匂いもする。


「食ったことあるのか?」


「たぶん」


 匙ですくう。


 一口食べる。


 少し硬め。


 粘りはほとんどない。


 それでも。


「米だ」


「こめ?」


 アクセルが聞き返す。


「ああ。俺のいた世界にあった穀物にかなり近い」


 もう一口。


 日本で食べていた米とは違う。


 粒は長く、炊いても互いにくっつきにくい。


 どちらかといえば、タイ米に近い。


 だが。


 間違いなく。


 米の仲間に見える。


「これ、何ていうんだ?」


 近くを通った主人へ声をかける。


「それか? リイスだ」


「リイス」


「ああ。珍しいか?」


「中央大陸じゃ見たことない」


「向こうまで出回る量は、そんなに多くねぇからな」


 主人が皿を見る。


「この大陸でも、よく作ってるのは北の方だ」


「北?」


「ああ。もっと北へ行くと、水の多い土地がある。そこで作られてる」


「水が必要なのか」


「そうだな。乾いた土地じゃ向かん」


「ここまでどうやって運ばれてくるんだ?」


 テラが尋ねる。


「北から一度ボルカニアへ集めて、そこから列車だ」


「なるほど」


 魔導列車。


 朝に見たばかりだ。


 人だけではなく、こういう食べ物も大陸の中を運んでいるらしい。


「これ、買える?」


 ノアが主人へ尋ねた。


「市場へ行けば売ってるぞ」


「明日、見に行くか?」


 俺が言うと、ノアが頷く。


「ああ。もう少し食べてみたい」


「俺も欲しい」


 アクセルが言う。


「お前は何に使うんだよ」


「食う」


「用途としては正しいな」


 テラが笑う。


⸻


 魚介と一緒に炒めたリイスは、思ったより食べやすかった。


 粘りが少ない分、魚介の汁や香辛料が一粒ずつに絡んでいる。


「こういう料理なら、この米の方が合うかもな」


「米?」


 カインが聞く。


「俺のいた世界での呼び方だ。こっちじゃリイスだな」


「似た物があったんですね」


「ああ。ただ、俺がよく食ってたのはもっと粒が短くて、粘りがあった」


「味も違う?」


 テラが尋ねる。


「少しな。でも、これはこれでうまい」


 この世界へ来て。


 見覚えのある野菜や香辛料は何度も見つけた。


 だが。


 米に近い物を見たのは初めてだった。


「買っておこう」


 市場で売っているなら。


 少しくらい持っていてもいい。


 無限収納なら保存にも困らない。


 何を作るかは、そのあと考えればいい。


⸻


 食事を終える頃には、食堂もさらに賑やかになっていた。


 ここちゃんは俺の膝の上で大人しくしている。


 きゅる。


 むぎも胸元から時々顔を出していた。


 キュ。


「明日は市場だな」


 テラが言う。


「ああ。リイスも見たいし、必要な物も見ておこう」


「そのあと、列車の切符も取るか?」


「そうだな。出発日も決めよう」


 鉄床亭は、まず二泊で取っている。


 ガンダルフにも、二、三日見ていけばいいと言われていた。


 市場を見て。


 切符を取って。


 必要なら、もう一度ギルドへ寄る。


 それでグランザでやることは、大体終わるはずだ。


 食堂を出て、部屋へ戻る。


 ここちゃんを敷物へ下ろす。


 むぎも胸元から出す。


 きゅる。


 キュ。


 明日は市場。


 そこで、この世界で初めて見つけた米に似た穀物。


 リイスを買ってみることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。