リイス
鉄床亭へ戻る頃には、ちょうど昼を過ぎていた。
部屋へ入り、ここちゃんを敷物の上へ下ろす。
きゅる。
むぎも胸元から出し、壁際の自分の場所へ戻した。
キュ。
「午前中だけで結構歩いたな」
テラが椅子へ腰を下ろす。
「ああ」
駅。
魔導列車。
それから、魔導具の店。
グランザへ来てから、見る物が多い。
「昼、どうする?」
アクセルが尋ねる。
「さっきまで街にいたのに、そこだけは忘れないな」
「腹は忘れない」
「それはそうだな」
昼は簡単に済ませることにした。
下の食堂でパンとスープ、それに魚を焼いた物を頼み、部屋へ持ってきてもらう。
ここちゃんとむぎにも昼の分を用意した。
それぞれが食べ終わったあとは、しばらく何もせずに過ごす。
ここちゃんは敷物の上で身体を伸ばし、むぎも壁際で静かになった。
俺も寝台へ腰を下ろす。
船を降りてから、ほとんど動きっぱなしだった。
夕食までは、少しゆっくりしてもいい。
⸻
夕方。
ここちゃんとむぎの食事と水を済ませてから、全員で一階の食堂へ下りた。
ここちゃんは俺の腕の中。
むぎは胸元にいる。
昨日と同じ壁際の卓へ座った。
「今日は何にする?」
テラが料理の札を見る。
「おすすめでいいんじゃないか?」
土地の料理なら、その方が面白い。
宿の主人へ聞くと、いくつかの料理を選んでくれた。
魚の香草焼き。
野菜と肉を煮込んだスープ。
焼いた根菜。
それから。
大きな皿に盛られた、見慣れない穀物料理。
運ばれてきた瞬間。
俺はその皿を見た。
「……ん?」
細長い。
白い粒。
一粒ずつが、はっきり分かれている。
麦とは違う。
見覚えがある。
「どうした?」
テラが尋ねる。
「これ」
皿を指す。
白い粒には、細かく切った野菜と魚介が混ぜられていた。
香辛料の匂いもする。
「食ったことあるのか?」
「たぶん」
匙ですくう。
一口食べる。
少し硬め。
粘りはほとんどない。
それでも。
「米だ」
「こめ?」
アクセルが聞き返す。
「ああ。俺のいた世界にあった穀物にかなり近い」
もう一口。
日本で食べていた米とは違う。
粒は長く、炊いても互いにくっつきにくい。
どちらかといえば、タイ米に近い。
だが。
間違いなく。
米の仲間に見える。
「これ、何ていうんだ?」
近くを通った主人へ声をかける。
「それか? リイスだ」
「リイス」
「ああ。珍しいか?」
「中央大陸じゃ見たことない」
「向こうまで出回る量は、そんなに多くねぇからな」
主人が皿を見る。
「この大陸でも、よく作ってるのは北の方だ」
「北?」
「ああ。もっと北へ行くと、水の多い土地がある。そこで作られてる」
「水が必要なのか」
「そうだな。乾いた土地じゃ向かん」
「ここまでどうやって運ばれてくるんだ?」
テラが尋ねる。
「北から一度ボルカニアへ集めて、そこから列車だ」
「なるほど」
魔導列車。
朝に見たばかりだ。
人だけではなく、こういう食べ物も大陸の中を運んでいるらしい。
「これ、買える?」
ノアが主人へ尋ねた。
「市場へ行けば売ってるぞ」
「明日、見に行くか?」
俺が言うと、ノアが頷く。
「ああ。もう少し食べてみたい」
「俺も欲しい」
アクセルが言う。
「お前は何に使うんだよ」
「食う」
「用途としては正しいな」
テラが笑う。
⸻
魚介と一緒に炒めたリイスは、思ったより食べやすかった。
粘りが少ない分、魚介の汁や香辛料が一粒ずつに絡んでいる。
「こういう料理なら、この米の方が合うかもな」
「米?」
カインが聞く。
「俺のいた世界での呼び方だ。こっちじゃリイスだな」
「似た物があったんですね」
「ああ。ただ、俺がよく食ってたのはもっと粒が短くて、粘りがあった」
「味も違う?」
テラが尋ねる。
「少しな。でも、これはこれでうまい」
この世界へ来て。
見覚えのある野菜や香辛料は何度も見つけた。
だが。
米に近い物を見たのは初めてだった。
「買っておこう」
市場で売っているなら。
少しくらい持っていてもいい。
無限収納なら保存にも困らない。
何を作るかは、そのあと考えればいい。
⸻
食事を終える頃には、食堂もさらに賑やかになっていた。
ここちゃんは俺の膝の上で大人しくしている。
きゅる。
むぎも胸元から時々顔を出していた。
キュ。
「明日は市場だな」
テラが言う。
「ああ。リイスも見たいし、必要な物も見ておこう」
「そのあと、列車の切符も取るか?」
「そうだな。出発日も決めよう」
鉄床亭は、まず二泊で取っている。
ガンダルフにも、二、三日見ていけばいいと言われていた。
市場を見て。
切符を取って。
必要なら、もう一度ギルドへ寄る。
それでグランザでやることは、大体終わるはずだ。
食堂を出て、部屋へ戻る。
ここちゃんを敷物へ下ろす。
むぎも胸元から出す。
きゅる。
キュ。
明日は市場。
そこで、この世界で初めて見つけた米に似た穀物。
リイスを買ってみることにした。




