鉱山入口
翌朝。
王都の空気は、いつも通り騒がしい。
それが逆に落ち着かない。
「王命、って実感あるか?」
宿を出ながら俺が聞く。
アクセルが肩を鳴らす。
「ある。だから行く。」
即答ではない。
一拍置いてからの、低い声。
ノアは横で地図を広げている。
「鉱山は北街道沿い。半日」
「街道管理は行き届いている」
「それでも消える、と」
俺が言うと、ノアは小さくうなずく。
「だから異常だ」
⸻
王都冒険者ギルド。
昨日より視線が多い。
「指名だってよ」
「王命らしい」
隠していない。
もう公然の事実だ。
受付に向かうと、奥から声がかかる。
「来たな」
レオンハルトだ。
腕を組んだまま、こちらを見る。
「覚悟は決まったか?」
試すような目。
俺は肩をすくめる。
「決まってなくても行きますよ」
レオンハルトが、わずかに口元を上げる。
「そうか」
⸻
机の上に、追加資料が広げられる。
「鉱山内部は三層構造」
「坑道は広い。大型魔物も入れる」
「だが――」
指で地図を叩く。
「痕跡が少なすぎる」
「争った形跡も薄い」
アクセルが低く言う。
「魔物なら、痕が残る」
「ああ」
レオンハルトがうなずく。
「だから、嫌な予感がする」
軽く言ったが、軽くない。
⸻
ノアが地図を覗き込む。
「地盤は安定している」
「崩落の可能性は低い」
「内部魔力濃度は?」
レオンハルトが視線を上げる。
「異常値は出ていない」
「だから困っている」
言葉の端に、苛立ちが混じる。
⸻
俺は地図を見つめる。
王都から半日。
すぐそこだ。
「王都の近くで、そんなことが起きてるのに……」
「だから王命だ」
レオンハルトが言う。
「失敗は許されん」
視線がアクセルへ。
そしてノアへ。
「Sランクが二人いる」
「王都は、お前らに賭けた」
重い。
⸻
ここちゃんが、俺の腕の中で小さく鳴く。
きゅる。
その音で、場が少し緩む。
レオンハルトがちらりと見る。
「……本当にその兎が中心なのか?」
「らしいです」
俺が答える。
アクセルが真顔でうなずく。
「庭だ」
やめろ。
レオンハルトが、ふっと笑った。
「無事に帰ってこい」
それは命令ではない。
元S級の、個人的な言葉だ。
「王都は、守る場所だ」
「だが、お前らも守れ」
俺は小さくうなずく。
「了解」
⸻
支給品を受け取り、外へ出る。
空は晴れている。
北門へ向かう。
石畳が土道へ変わる。
街の音が、少しずつ遠ざかる。
⸻
半日後。
丘を越えた先に、それはあった。
山肌を削るように開いた巨大な坑口。
周囲は、妙に静かだ。
作業音がない。
煙も上がっていない。
「……止まってるな」
俺が言う。
アクセルが目を細める。
「人の気配が薄い」
ノアが足を止める。
「静かすぎる」
風が、坑道の奥から吹き出す。
冷たい。
ここちゃんが、きゅる、と鳴く。
むぎが胸ポケットの中で、わずかに動いた。
キュ。
白兎の庭。
初の王命。
鉱山入口。
坑道の奥は、暗い。
まだ、何も見えない。
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