表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
22/189

王命


登録を終えて宿に戻った、その翌日。


昼を過ぎた頃だった。


部屋で地図を眺めていると、扉が三度、控えめに叩かれる。


コン、コン、コン。


宿の主人の声が、少しだけ緊張している。


「王宮から、使者様が……」


部屋の空気が変わる。


アクセルが椅子からゆっくり立ち上がる。


ノアは無言で視線を扉へ向ける。


俺は、封書を受け取る前から分かっていた。


軽い話じゃない。



入ってきたのは、以前の使者とは違う男だった。


鎧ではない。


深い紺の外套。


胸元に王家の紋章。


「白兎の庭」


正式名称で呼ばれる。


少しだけ、現実味が増す。


「王命として、依頼を通達する」


声は抑えられているが、重い。



封書が開かれる。


「王都近郊、北方鉱山にて失踪事件発生」


「ひと月前より、鉱山夫が帰還せず」


地図が広げられる。


王都から北へ、半日ほど。


近い。


近すぎる。


「当初、Cランク冒険者パーティーを派遣」


「……消息不明」


一拍。


「続いてBランクパーティーを派遣」


「連絡、途絶」


部屋が静まる。


ここちゃんが、俺の膝の上で小さく動く。


きゅる。



使者が続ける。


「王都近郊の鉱山は、王国の基幹資源を担う」


「放置はできない」


声の奥に、焦りがある。


「指名の理由は明確だ。」


視線がアクセルへ向く。


「Sランク冒険者が二名所属」


ノアは視線を逸らさない。


「迅速な解決を望む」


短い。


だが、願いではない。


命だ。



使者が封書を閉じる。


「明朝、出立を」


「詳細は王都ギルドが支援する」


それだけ言って、静かに一礼する。


去る。


扉が閉まる。



沈黙。


王命、か。


俺は地図を見つめる。


王都から半日。


Cランクが消え、Bランクも消えた場所。


「……近いな」


思わず口に出る。


アクセルが腕を組む。


「だからこそ、急ぐ」


怒りではない。


責任感だ。


ノアが静かに言う。


「消失の速度が早い」


「通常の魔物被害なら痕跡が残る」


理屈は冷静だが、声は少しだけ低い。


俺は息を吐く。


巻き込まれて王都へ来た。


事情聴取だけのはずだった。


だが今は違う。


白兎の庭として、指名された。


逃げ道はない。



ここちゃんが、きゅる、と鳴く。


不思議と、部屋の空気が緩む。


むぎが胸ポケットで小さく動く。


キュ。


俺は立ち上がる。


「……やるしかないな」


ぼやきではない。


決めた声だ。


アクセルがうなずく。


「当然だ」


ノアも静かに続ける。


「調査は迅速に行う」


理屈の顔。


だが、恐れは一切ない。



窓の外で、鐘が鳴る。


王都の夕刻。


人の声が遠くに広がる。


そのすぐ外で、鉱山が沈んでいる。


王命。


白兎の庭、初の本格依頼。


王都の鐘の音が、やけに重く響いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ