表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/92

王命


登録を終えて宿に戻った、その翌日。


昼を過ぎた頃だった。


部屋で地図を眺めていると、扉が三度、控えめに叩かれる。


コン、コン、コン。


宿の主人の声が、少しだけ緊張している。


「王宮から、使者様が……」


部屋の空気が変わる。


アクセルが椅子からゆっくり立ち上がる。


ノアは無言で視線を扉へ向ける。


俺は、封書を受け取る前から分かっていた。


軽い話じゃない。



入ってきたのは、以前の使者とは違う男だった。


鎧ではない。


深い紺の外套。


胸元に王家の紋章。


「白兎の庭」


正式名称で呼ばれる。


少しだけ、現実味が増す。


「王命として、依頼を通達する」


声は抑えられているが、重い。



封書が開かれる。


「王都近郊、北方鉱山にて失踪事件発生」


「ひと月前より、鉱山夫が帰還せず」


地図が広げられる。


王都から北へ、半日ほど。


近い。


近すぎる。


「当初、Cランク冒険者パーティーを派遣」


「……消息不明」


一拍。


「続いてBランクパーティーを派遣」


「連絡、途絶」


部屋が静まる。


ここちゃんが、俺の膝の上で小さく動く。


きゅる。



使者が続ける。


「王都近郊の鉱山は、王国の基幹資源を担う」


「放置はできない」


声の奥に、焦りがある。


「指名の理由は明確だ。」


視線がアクセルへ向く。


「Sランク冒険者が二名所属」


ノアは視線を逸らさない。


「迅速な解決を望む」


短い。


だが、願いではない。


命だ。



使者が封書を閉じる。


「明朝、出立を」


「詳細は王都ギルドが支援する」


それだけ言って、静かに一礼する。


去る。


扉が閉まる。



沈黙。


王命、か。


俺は地図を見つめる。


王都から半日。


Cランクが消え、Bランクも消えた場所。


「……近いな」


思わず口に出る。


アクセルが腕を組む。


「だからこそ、急ぐ」


怒りではない。


責任感だ。


ノアが静かに言う。


「消失の速度が早い」


「通常の魔物被害なら痕跡が残る」


理屈は冷静だが、声は少しだけ低い。


俺は息を吐く。


巻き込まれて王都へ来た。


事情聴取だけのはずだった。


だが今は違う。


白兎の庭として、指名された。


逃げ道はない。



ここちゃんが、きゅる、と鳴く。


不思議と、部屋の空気が緩む。


むぎが胸ポケットで小さく動く。


キュ。


俺は立ち上がる。


「……やるしかないな」


ぼやきではない。


決めた声だ。


アクセルがうなずく。


「当然だ」


ノアも静かに続ける。


「調査は迅速に行う」


理屈の顔。


だが、恐れは一切ない。



窓の外で、鐘が鳴る。


王都の夕刻。


人の声が遠くに広がる。


そのすぐ外で、鉱山が沈んでいる。


王命。


白兎の庭、初の本格依頼。


王都の鐘の音が、やけに重く響いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ