魔導列車
翌朝。
ここちゃんとむぎの食事を済ませ、俺たちも鉄床亭で朝食を取った。
今日はまず、魔導列車の駅へ行く。
ガンダルフから、ボルカニアまでは列車で行けると聞いた。
朝に出れば、昼を少し過ぎた頃には着くらしい。
ただ。
実物を見たこともなければ、乗り方も分からない。
「駅、こっちだったな」
ガンダルフにもらった地図を確認する。
ここちゃんは俺の腕の中。
むぎは胸元から顔を出している。
キュ。
「今日は船じゃないぞ」
頭を軽く撫でる。
まだ乗らないけどな。
⸻
駅へ近づくにつれ、人と荷車の数が増えていった。
大きな荷を積んだ荷車。
木箱を何段も重ねて運ぶ者。
旅装の冒険者。
商人らしい者もいる。
その中を進むと、やがて大きな屋根が見えてきた。
「あれか?」
アクセルが足を止める。
「たぶんな」
建物そのものが大きい。
港の倉庫をいくつか繋げたような幅があり、その奥へ何本もの線が伸びている。
「線路か」
俺が呟く。
鉄でできた二本の線。
見覚えがある。
だが。
その上に停まっている物は、俺の知っている列車とは少し違っていた。
「……でかいな」
金属で覆われた長い車体。
先頭部分には、大きな魔石らしき物が組み込まれている。
その周囲を、金属の管や枠が囲んでいた。
後ろには、窓の付いた車両が何両も続いている。
別の線路には、窓のない大きな貨車も並んでいた。
「これが魔導列車か」
テラが見上げる。
「ああ」
蒸気機関車とは違う。
煙突もない。
それでも。
線路の上を走る列車。
そう考えれば、俺には馴染みのある形だった。
「これが動くんですね」
カインが先頭車両を見る。
「らしいな」
ノアも黙って車体を見上げている。
その横を。
小さな荷車が何台も通り過ぎていった。
積まれているのは木箱や樽。
旅人だけではなく、港へ届いた荷物もここから大陸の中へ運ばれていくのだろう。
⸻
駅の中へ入る。
広い構内には、いくつもの受付が並んでいた。
上には行き先を示す札が掛かっている。
「ボルカニア」
テラが一つを読む。
「あれだな」
その隣には。
「ドゥルガルガ」
「こっちはアイアンアンカーですね」
カインが別の札を見る。
ガンダルフから聞いた三つの行き先だ。
まずはボルカニアの受付へ向かう。
「少し聞きたいんだが」
「どちらまで?」
「ボルカニア」
受付にいたドワーフが頷く。
「初めてか?」
「ああ」
「なら、朝の便を使えば昼を少し過ぎた頃には着く」
ガンダルフから聞いた通りだ。
「ずいぶん早いな」
俺が言うと、受付の男が笑った。
「馬車で行く奴は、今じゃほとんどいないぞ」
「そりゃそうなるか」
朝に出て昼過ぎ。
馬車で何日もかける必要がないなら、列車を使う。
「こいつらも一緒に乗れるか?」
ここちゃんと、胸元のむぎを示す。
きゅる。
キュ。
「そのくらいなら問題ない。車内で放さず、自分たちで管理してくれればいい」
「籠へ入れないと駄目か?」
「必須じゃない。暴れたり、他の客へ迷惑をかけなければな」
「それなら大丈夫そうだ」
ここちゃんは俺が抱いていればいい。
むぎも胸元か、誰かの肩にいることが多い。
「切符はいつ買えばいい?」
「乗る日が決まったら早めに取っておけ。旅客用の席には限りがある」
「分かった」
今日はまだ買わない。
グランザをもう少し見てから、出発日を決めればいい。
⸻
受付を離れる。
「ほかの二つは、どんな場所なんだ?」
アクセルが行き先の札を見る。
「聞いてみるか」
近くにいた案内係へ声をかけた。
「ドゥルガルガって、どんなところなんだ?」
「西の鉱山地帯にある採掘拠点だ」
「街じゃないのか?」
「大きな街じゃないな。鉱石や魔石を運ぶための駅と、その周りに働く者の集落がある」
だから。
さっき見た貨車のような物が多いのだろう。
「観光で行く場所ではなさそうだな」
「鉱山へ入るなら許可もいるぞ」
「ああ。それは聞いてる」
ドランから。
勝手に鉱山へ入ったり、掘ったりするなと言われている。
「アイアンアンカーは?」
テラが尋ねる。
「東の港だ。大きな船を造ったり、修理したりする工房が集まってる」
「グランザとは違う港なのか」
「ああ。ここは交易が中心。アイアンアンカーは船と工房が中心だ」
「なるほど」
同じ港でも役割が違うらしい。
今の俺たちに用があるのは、やはりボルカニアだ。
⸻
せっかくなので、乗り場の近くまで行ってみる。
柵の外から。
停まっている列車を眺めた。
先ほど見た物とは別の列車が、ゆっくりと動き始める。
「動いた」
ノアが言う。
「ああ」
低い音。
足元へ伝わる僅かな振動。
車輪が線路の上を転がり始める。
最初はゆっくり。
だが。
少し進むだけで、徐々に速度が上がっていく。
後ろへ続く貨車も、一両ずつ引かれて動き出した。
「馬車より速そうだな」
テラが目で追う。
「たぶん、比べものにならない」
「乗れば分かる」
アクセルが言う。
「お前、楽しみなのか?」
「少し」
珍しく素直だ。
俺も同じだ。
列車に乗ること自体は、元の世界なら珍しくもなかった。
だが。
魔石で動く列車となれば話は別だ。
どんな仕組みなのか。
どのくらい速いのか。
少し気になる。
胸元で、むぎが鼻を動かした。
キュ。
「お前も気になるか?」
返事の代わりに、もう一度鼻が動く。
ここちゃんは。
大きな音がするたびに耳を向けていたが、腕の中から逃げようとはしない。
きゅる。
「乗る時は、もう少し静かな席だといいな」
頭を撫でる。
⸻
駅を出る。
ボルカニアまでの行き方は分かった。
朝に出発して。
昼を少し過ぎた頃に到着。
二匹も一緒に乗れる。
出発日を決めたら、切符を取ればいい。
「次どうする?」
テラが尋ねる。
まだ午前中だ。
通りの向こうには、昨日より多くの店が開いている。
その中には。
魔石や歯車を描いた看板もいくつも見えた。
「せっかくだし、魔導具を見ていくか」
「ああ」
昨日。
露店で見ただけでも、中央大陸では見かけない物がいくつもあった。
アイクから。
持ち出せる物と、そうでない物があることも聞いた。
買うかどうかは別として。
どんな物があるのか。
もう少しちゃんと見てみたい。
俺たちは駅を離れ。
魔導具を扱う店が並ぶ通りへ向かった。




