ドワーフ大陸
朝。
目を覚ますと、船室の中はすでに明るかった。
壁側では、ここちゃんとむぎが並んで丸くなっている。
俺が体を起こすと、ここちゃんの耳が動いた。
少し遅れて、むぎも顔を上げる。
「おはよう」
ここちゃんの頭を撫でる。
きゅる。
「今日で船も終わりだぞ」
むぎにも手を伸ばす。
キュ。
向かいの寝台では、ノアも起き上がっていた。
「もう着いていると思うか?」
「どうだろ。昨日の話じゃ、朝にはって言ってたけど」
丸い窓を見る。
そこからでは、まだ海しか見えない。
「朝飯食ってから降りるんだろ。まず二匹だな」
「ああ」
ここちゃんとむぎを床へ下ろす。
水と餌を用意すると、二匹ともいつも通り口をつけた。
ここちゃんは牧草を食べ、むぎは木の実を頬へ入れている。
「元気そうだな」
「昨日の疲れも残っていないようだ」
ノアがここちゃんの背中を撫でる。
これなら大丈夫そうだ。
残してあった二匹の物をまとめるのは、朝食のあとでいい。
「行くか」
「ああ」
扉を開ける。
ちょうど向かいの部屋から、テラたちも出てきた。
「おはよう」
「おはようございます」
カインが軽く頭を下げる。
アクセルも今日は普通に起きている。
「寝坊しなかったな」
「昨日だけだって」
テラが笑った。
「とりあえず飯だ。降りるのはそのあとだろ」
「そうだな」
俺たちは食堂へ向かった。
⸻
朝食を終え、船室へ戻る。
昨夜のうちにほとんど片づけていたため、残っている物は少ない。
二匹の水入れ。
餌。
敷物。
それらをまとめ、無限収納へしまう。
「忘れ物ないな?」
船室を見回す。
「ああ」
ノアも確認する。
これで、この部屋に残した物はない。
ここちゃんを抱き上げる。
むぎへ手を差し出すと、掌へ乗り、そのまま腕を登ってきた。
「むぎはここな」
胸ポケットへ入れる。
キュ。
向かいの部屋から出てきたテラたちも、荷物はまとめ終わっていた。
「準備できたか?」
「ああ」
「では、行きましょう」
カインが言う。
俺たちは船室をあとにした。
⸻
甲板へ上がる。
目に入った景色に、足が止まった。
「……着いた」
船の向こうに、港がある。
船はすでにグランザ港へ入っていた。
桟橋には荷物を運ぶ者たちが行き交い、別の船でも積み下ろしが始まっている。
そして。
「ドワーフだ」
アクセルが言った。
「ああ」
今まで俺たちが会ったドワーフは、ドランだけだった。
だが、ここには違う。
桟橋にも。
港の向こうにも。
何人ものドワーフがいる。
「本当に来たんだな」
俺が呟く。
「ドワーフ大陸だからな」
テラが周囲を見る。
「ドラン一人しか知らなかったから、何か変な感じするけど」
「向こうから見れば、こちらの方が珍しいかもしれませんね」
カインが言う。
「それもそうか」
ここちゃんも腕の中から周囲を見ている。
胸ポケットのむぎも、顔だけを出して鼻を動かしていた。
やがて下船の案内が始まる。
順番を待ち、俺たちも桟橋へ降りた。
足が地面につく。
「……よし」
四日間の船旅。
途中で波に揺られ。
最後にはシーサーペントまで出た。
それでも。
無事に着いた。
ドワーフ大陸。
最初の街、グランザだ。
⸻
港を出る。
中央大陸とは、少し雰囲気が違った。
通りを行き交うドワーフの数が多い。
それだけでも、ここが別の大陸だと分かる。
少し進めば、工房らしい場所も目についた。
見慣れない魔導具が置かれている店もある。
「昨日まで話で聞いてた物が、普通にあるな」
俺が言う。
「ああ」
テラも足を止めずに周囲を見る。
「魔導列車も、この大陸では使われているんだったな」
「まずはギルドだろ」
アクセルが言った。
「珍しく正しい」
「いつも正しい」
「それはない」
「何でだ」
カインが小さく笑う。
「観光はあとですね」
「ああ」
ノアが頷く。
「先に、調べるべきことがある」
その通りだ。
俺たちは、ドワーフ大陸を見に来たわけじゃない。
古い地図に残された印。
あれが示す場所について調べるために来た。
「グランザの冒険者ギルドへ行こう」
「ああ」
ここちゃんを抱き直す。
胸ポケットでは、むぎがまだ外を見ている。
初めて足を踏み入れたドワーフ大陸。
気になる物はいくらでもある。
だが、まずは情報だ。
俺たちは港から続く通りを、冒険者ギルドへ向かって歩き始めた。




