表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/162

まずは食と住(ただし無限収納は後出しです)


森の朝は容赦がない。

異世界初日の朝だ。


寒い。


湿気がまとわりつく。


寝不足。


だが、腕の中の白い温もりがある。


ここちゃんは俺の腕から抜け出し、周囲をくんくんと確認している。


胸ポケットのむぎちゃんは、まだ丸まったまま。


「……まず水だな」


《周囲半径二百メートル以内に水源反応》


「便利だな」


《誇ってください》


「誇らない」


歩きながら、空気の流れを感じる。


昨日よりも、少しだけ世界がはっきりしている。


湿気の濃い方向。


地面の傾き。


わずかな水音。


(これが……魔力ってやつか?)


視覚じゃない。


感覚だ。


空気の“重み”が分かる。


《初期適応が進行中です》


やがて、小さな川を発見する。


「よし」


手ですくう。


冷たいが澄んでいる。


《飲用可》


「助かる」


ここちゃんにも少量。


むぎちゃんは目をこすりながら顔を出した。


キュッ。


「おはよう」


その一言で、不思議と胸の重さが消える。


まだ、生きてる。



次は拠点。


雨風を防げる場所。


《北西方向に岩場確認》


移動。


低い崖の下に窪みがある。


天然の簡易シェルター。


「合格」


落ち葉を集める。


枝を組む。


地面の湿気が強い。


このままだと体温を奪われる。


「……ちょっと待て」


手をかざす。


さっき感じた“何か”を思い出す。


空気の流れ。


押し出す感覚。


地面に意識を向ける。


じわり、と湿気が逃げる。


落ち葉が少し乾く。


「……おお」


《無属性魔力制御:微弱乾燥成功》


「やっぱ魔力か」


《分類上は無属性です》


「名前はどうでもいい」


生活に使えるなら十分だ。



「……あとは食料」


腹は減る。


ここちゃんの草も必要。


むぎちゃんの種も有限だ。


森を歩く。


鑑定を連発。


《食用可》

《毒》

《不可》


取捨選択。


理系脳フル回転。


罠を仕掛ける。


簡易スネアトラップ。


枝を曲げ、蔦で固定。


「これで小型なら取れる」


《経験値が増加しています》


「なにそれ」


《鑑定精度が使用回数により向上します》


「それは先に言え」


森の奥。


岩肌に白い結晶が露出している。


「……これ」


《岩塩》


数秒、固まる。


「勝ったな」


塩。


文明の基礎。


テンションが一気に上がる。


岩塩の露出した岩肌のそばに、鋭い石片が落ちていた。


拾い上げる。


縁は意外なほど鋭い。


ナイフほどではないが、皮を裂くには使えそうだ。


「……これでいけるか」


《切断用途:簡易可》


「文明レベル石器か」


だが、ないよりは遥かにいい。


ここちゃんは草をもしゃもしゃ。


むぎちゃんは胸ポケットから外を観察。


なんとかなる。


本気で、そう思えた。



夕方。


罠に小型の獣がかかっていた。


申し訳ないが、いただく。


血抜き。


解体。


綺麗とは言えないが、解体はできる。


焚き火の準備。


「火打石とかないよな……」


嫌な予感。


「……ないよな?」


《……無限収納が使用可能です》


時間が止まる。


「は?」


《転生特典の一部です》


「なんで今言う」


《優先度判定の結果——》


「中身は?」


《現在、空です》


「空ぁ?!」


森に叫びが響く。


ここちゃんがぴくりと耳を動かす。


むぎちゃんがキュッと鳴く。


「……役に立たねぇ」


《保存機能としては優秀です》


「今は火だよ火!」


深呼吸。


乾いた枝を選ぶ。


削った棒と火床を用意。


棒を回す。


ゴリゴリ。


手が痛い。


煙は出る。


でも火にならない。


「くそ……」


汗が滲む。


そのとき、思い出す。


さっきの感覚。


空気の流れ。


押し出す力。


「……摩擦、少しだけ補助できるか?」


棒に意識を集中する。


ほんの少しだけ。


力を流す。


摩擦が増す。


煙が濃くなる。


赤い火種。


「いけ……!」


ふっと息を吹きかける。


ぱち、と小さな火が生まれた。


《無属性魔力制御:熱量補助成功》


「魔力って、便利だな」


《分類上は無属性です》


「うるさい」


ようやく肉を焼く。


岩塩を振る。


じゅう、と音がする。


香りが立つ。


一口。


「……うまい」


塩だけ。


でも、生きている味だ。


ここちゃんの頭を撫でる。


むぎちゃんに小さく分ける。


夜。


焚き火の前。


ここちゃんは足元に寄り添う。


むぎちゃんは胸元で丸まる。


今日は、ちゃんと守れた。


異世界二日目。


なんとか生きている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ