生乾きは許さない
翌日、朝から雨だった。
強くはない。
だが止みそうにもない。
軒先から落ちる雨粒を眺めながら、レインは洗濯籠を抱えていた。
「よし」
干された洗濯物へ手を向ける。
無属性魔力を流す。
ゆっくり。
少しずつ。
乾燥。
乾燥。
乾燥。
布の水分だけを飛ばしていく。
厚手の服。
薄手の服。
下着。
布ごとに調整する。
やり過ぎると傷む。
弱すぎると乾かない。
地味な作業だった。
「何をしているんですか」
後ろから声がした。
振り返る。
カインだった。
「洗濯だ」
「それは見れば分かります」
カインは苦笑した。
「魔法で乾かしているのですか」
「ああ」
レインは頷く。
「雨だからな」
「臭うだろ」
当たり前のような返事だった。
カインは首を傾げる。
「臭う?」
「生乾き」
「ああ……」
分かったような分からないような顔をする。
この世界ではあまり気にされないのかもしれない。
レインは続ける。
「嫌なんだよ」
「なんかこう」
「微妙に臭うだろ」
「それは分かります」
カインも頷いた。
「だから乾かす」
レインは再び洗濯物へ視線を戻す。
魔力を調整する。
薄い布。
少し弱く。
厚い布。
少し強く。
均一に。
丁寧に。
水分だけを飛ばす。
カインはしばらくその様子を見ていた。
「布によって変えているのですか」
「ああ」
「傷むからな」
「なるほど」
感心したような声だった。
しばらく沈黙。
雨音だけが響く。
やがて。
カインが口を開いた。
「これは以前から?」
「ああ」
レインは頷く。
「まぁそうだな」
「洗濯だけじゃない」
「生ゴミ乾かしたり」
「木を乾燥させたり」
「食材乾かしたり」
「色々だ」
カインが静かに聞いている。
「無属性って最初は本当に何も出来なかったからな」
「出来ることを増やすしかなかった」
レインは肩を竦めた。
「生活の方が大事だったし」
戦闘より先に。
洗濯だった。
生ゴミだった。
保存食だった。
風呂だった。
そんな話だ。
しばらくして。
カインがふっと笑った。
「レイン」
「ん?」
「それはもう訓練ですよ」
レインの手が止まる。
「そうか?」
「ええ」
カインは即答した。
「普通はそこまでやりません」
「そういうもんか」
「そういうものです」
レインは少し考えた。
だが。
結局よく分からなかった。
「まぁ便利だぞ」
「それは知っています」
カインは笑う。
雨はまだ降り続いていた。




