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温かい場所


「そして最後」


 その声で空気が変わる。


「ここちゃんとむぎのことだ」


 レインは腕の中のここちゃんを撫でた。


 ここちゃんは気持ち良さそうに目を細めている。


 むぎは胸ポケットの縁に前足を掛けていた。


「ここちゃんの力はみんな知ってるな」


 誰も異論はない。


 浄化。


 回復。


 傷を癒し。


 呪いを払う力。


 アクセルも。


 石化した冒険者達も。


 その力に救われている。


「ただ」


 レインは苦笑した。


「俺も何でそんな力があるのかは知らない」


「神から説明されたわけでもない」


「気付いたら使ってた」


 ここちゃんはきゅる、と鳴く。


 本人は全く気にしていない。


「むぎも同じだ」


 レインは胸ポケットを見る。


 むぎは頬袋をもにゅもにゅ動かしていた。


「むぎの力も、俺は全部分かってるわけじゃない」


 食堂が静かになる。


 皆、続きを待っていた。


「ただ」


 レインは一度言葉を切る。


「怖いと思われても仕方ない力だと思う」


 誰も口を開かない。


 否定。


 その言葉は出していない。


 だが。


 ここにいる全員が何の話をしているのか分かっていた。


「俺も最初は何が起きたのか分からなかった」


「今だって全部分かってるわけじゃない」


 むぎを見る。


 小さなハムスター。


 掌に収まるほどの存在。


 それでも。


 力だけを見れば恐れられてもおかしくない。


「それでも」


 レインの声に迷いはなかった。


「むぎは俺を助けてくれた」


「ここちゃんもそうだ」


「ずっとだ」


 腕の中のここちゃんを撫でる。


 むぎも見つめる。


「俺はこいつらを家族だと思ってる」


「元の世界から一緒だった」


「だから置いていけなかった」


「だから連れてきた」


 静かな声だった。


「特にむぎの力は」


「恐れられても仕方ないと思ってる」


「でも」


 レインは仲間達を見た。


「何があっても守ると決めてる」


「こいつらは家族だからだ」


 食堂に静寂が落ちる。


 誰もすぐには言葉を返さなかった。


 やがて。


 最初に口を開いたのはテラだった。


「……そうか」


 小さな呟き。


 そしてむぎを見る。


「なら」


 少しだけ笑った。


「むぎのおかげで精霊大陸は救われたんだな」


 レインは目を瞬く。


 テラは続けた。


「確かに恐ろしい力かもしれない」


「でも」


「私が見たのは違う」


 あの時の光景。


 むぎがいなければ靄に対抗する術などなかった。


「私は助けられた側だ」


 むぎは何も知らない顔で毛繕いをしている。


「それに」


 テラは口元を緩めた。


「むぎは可愛い」


 沈黙。


「そこかよ」


 思わずレインが突っ込んだ。


「大事でしょう?」


 真顔だった。


 ノアが頷く。


「同意する」


「ここちゃんも可愛い」


 ここちゃんはきゅる、と鳴いた。


「重要な情報だ」


「そうなのか?」


 レインは真面目に悩んだ。


 カインが小さく笑う。


「私も同意見です」


 むぎを見る。


 ここちゃんを見る。


 そしてレインを見る。


「帝国の件もそうでした」


「私は皆さんに助けられました」


「ここちゃんも」


「むぎも」


「皆さんも」


「仲間だと思っています」


 レインは何も言えなかった。


 その時。


 アクセルが腕を組んだまま口を開く。


「俺は最初から信じている」


 短い言葉だった。


 だが。


 アクセルらしかった。


「お前がそう決めたならそれでいい」


 レインは思わず笑う。


「雑だな」


「そうか?」


「そうだ」


 即答した。


 そして。


 アクセルは少しだけ口元を緩める。


「それに」


 全員を見る。


「レインが変なのは今さらだ」


 数秒の沈黙。


 テラが吹き出した。


 ノアも頷く。


「否定できない」


「お前までか」


 レインは額を押さえる。


 カインまで肩を震わせていた。


 むぎがキュッと鳴く。


 ここちゃんもきゅる、と鳴いた。


「お前らまで同意するな」


 笑い声が広がる。


 少し前まで抱えていた不安が、馬鹿らしくなるほどに。


 ここは温かかった。


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