レインの決意
翌日の夕食後。
いつも通りの食卓だった。
今日の依頼の話。
市場の話。
明日の予定。
他愛のない会話が続く。
やがて食事も終わり。
片付けを終えた頃。
レインは小さく息を吐いた。
昨日、決めた。
ならもう迷うな。
「少し時間をくれ」
その一言で。
食堂が静かになる。
アクセルが顔を上げた。
「なんだ」
ノアも視線を向ける。
テラは首を傾げた。
カインは何も言わない。
レインは皆の顔を見る。
少しだけ緊張している自分に気付いて、内心で苦笑した。
「今まで話してなかったことがある」
誰も口を挟まない。
続きを待っている。
レインは一度息を吐いた。
「俺は」
言葉を探す。
どう説明すれば伝わるのか。
自分でも分からない。
だから。
そのまま言うことにした。
「俺はこの世界の人間じゃない」
沈黙。
数秒。
誰も反応しなかった。
いや。
反応できなかった。
「……は?」
最初に声を出したのはアクセルだった。
「この世界の人間じゃない?」
「ああ」
レインは頷く。
「元々は別の世界にいた」
テラが目を瞬く。
「別の……世界?」
「そうだ」
レインは苦笑した。
「俺がいた世界には魔法も魔物もいない」
「剣で戦う冒険者もいない」
アクセルが腕を組む。
「そんな場所があるのか」
「俺もこの世界に来るまでは、こっちの方が物語の中だけだと思ってた」
誰も笑わなかった。
冗談ではないと分かっているからだ。
レインは続ける。
「俺はそこで生まれて」
「育って」
一度言葉を切る。
「死んだ」
今度こそ全員が固まった。
「死んだ?」
テラが思わず聞き返す。
「ああ」
レインは頷いた。
「神の手違いだったらしい」
食堂が静まり返る。
理解が追いついていないのだろう。
それは当然だ。
レイン自身だって最初は理解できなかった。
「それで神と会った」
「この世界へ転移することになった」
そこまで話して。
レインは足元へ視線を落とした。
ここちゃんはいつも通りだ。
椅子の脚の横で香箱を組んでいる。
むぎも胸ポケットから顔を出していた。
レインは少しだけ笑う。
「ただ」
「俺は一人で来たわけじゃない」
全員の視線が集まる。
レインはここちゃんを抱き上げた。
「ここちゃんと」
続いて胸ポケットのむぎを見る。
「むぎを置いていけなかった」
むぎが小さく鳴く。
キュ。
「だから無理を言った」
「一人と二匹で、この世界に来た」
再び沈黙が落ちる。
誰も口を開かない。
ただ黙って聞いていた。
レインはそんな仲間達を見回す。
「それと」
静かに続けた。
「神と話した時、この世界で生きるためにいくつか力を貰った」
ここから先は。
今の俺を作っている話だ。




