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本当の司令と決意


感謝会を終えた夜。


片付けを済ませ、各々のんびり過ごしていた。


 アクセルが欠伸を一つ。


「先に休む」


 短く言い残し、部屋に戻っていった。


 ノアもここちゃんを抱えたまま立ち上がる。


「私も戻る」


 ここちゃんは腕の中で気持ち良さそうに目を細めていた。


 テラも立ち上がり、軽く手を振る。


「おやすみなさい」


 やがて食堂には静けさが戻った。


 レインも立ち上がりかける。


 その時だった。


 カインだけが席に残っていることに気付く。


「どうした?」


 声を掛けると、カインは視線を上げた。


「いえ」


 一度言葉を切る。


「少し、お話しませんか」


 珍しい。


 レインは椅子へ座り直した。


「構わんぞ」


 カインは小さく頷く。


 しばらく沈黙が続いた。


 何を話すべきか考えているようにも見えた。


 やがて。


「一つ、お伝えしておくべきことがあります」


「なんだ?」


「私が魔王から受けた司令についてです」


 レインは眉を上げる。


 以前聞いた話だ。


 固定の観測。


 確かそうだったはず。


「固定の件か?」


「ええ」


 カインは頷いた。


「ですが、それだけではありません」


 レインは黙る。


 カインは続けた。


「固定と否定の観測」


「それが私の受けた司令です」


 レインの動きが止まった。


「……否定?」


「はい」


 静かな返答だった。


「私はその名称を司令で知りました」


 レインは何も言わない。


 否定。


 その言葉が頭の中で引っ掛かる。


 あの力をそう呼んだのは。


(くさえもん)


《呼び出しを確認》


 反射的に意識を向ける。


(否定って何だ)


《暫定定義:否定》


(それは知ってる)


《詳細不明》


 レインは思わず額を押さえた。


(お前がそう呼んだんだろ)


《肯定》


(じゃあ何でそう呼んだ)


《説明不能》


《観測データ不足》


(……役に立たねぇ)


《遺憾です》


 いつも通りだった。


 だから余計に引っ掛かる。


 否定。


 その呼称はくさえもんが付けたものだと思っていた。


 少なくとも俺はそう認識していた。


 なのに。


 なぜ魔王が知っている。


「その顔」


 カインが静かに言う。


「やはり心当たりがあるのですね」


「まぁな」


 レインは苦笑する。


「で?」


「なんで今その話をした」


 カインは少し考えた。


「以前からお伝えするべきか迷っていました」


「ですが」


 金色の瞳がレインを見る。


「レインが話していないことを、私が話すべきではないと思ったので」


 レインは小さく息を吐いた。


 やっぱり気付いていたか。


 いや。


 気付いていないはずがない。


 むぎの力を見ている。


 帝国での一件もあった。


 それでもカインは聞かなかった。


 踏み込まなかった。


 ずっと。


 待っていたのだ。


 レインは視線を落とす。


 考えてみれば。


 ずっと考えていた。


 いや。


 違うな。


 考えないようにしていた。


 神のこと。


 転移のこと。


 くさえもん。


 ここちゃん。


 むぎ。


 無属性魔力。


 分からないことばかりだった。


 答えが出ないから。


 後回しにしていた。


 だが。


 もう皆がいる。


 アクセル。


 ノア。


 テラ。


 カイン。


 命を預けられる仲間達だ。


 それなのに。


 俺だけ何も話していない。


「……そうか」


 レインはゆっくり立ち上がった。


「カイン」


「はい」


「ありがとう」


 カインは少しだけ目を丸くした。


「礼を言われることはしていませんよ」


「いや」


 レインは首を振る。


「十分だ」


 そして小さく笑う。


「明日、みんなに話す」


 カインは何も聞かなかった。


 ただ静かに頷いた。


「分かりました」


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