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月例市を歩く


 片付けを終える。


 炭も消した。


 屋台も畳んだ。


 串は完売。


 やることは終わっている。


「どうする」


 アクセルが聞く。


 レインは手に持ったエールを見る。


「せっかくだし回るか」


 月例市だ。


 普段はあまり飲まない。


 だが。


 祭りのような空気につられて一本買ってしまった。


 たまにはいいな。


 白兎の庭は通りを歩き始めた。



 人が多い。


 普段よりずっと多い。


 屋台も多い。


 薄く焼いた生地に肉や野菜を包んだもの。


 果物やドライフルーツを串に刺したもの。


 魚を塩焼きにしたもの。


 果物を丸ごと焼いたもの。


 見たことのない食べ物もある。


「色々あるな」


 レインが呟く。


 外から来た商人も多い。


 以前買った乾燥麺。


 レンネの蜂蜜漬け。


 色とりどりの糸で編まれたアクセサリー。


 綺麗な石を加工した装飾品。


 珍しい皮を使ったクッション。


 本当に様々だった。


 見ているだけでも面白い。



 アクセルは肉の串を食べていた。


 片手では足りなかったらしい。


 両手だった。


 装飾品には目もくれない。


 次の肉を探している。


「お前、本当に肉だな」


「肉だからな」


 意味が分からない。


 だが本人は満足そうだった。



 テラはアクセサリーを見ていた。


 糸で編まれた髪飾り。


 店主と話している。


「髪紐はあるか?」


「ああ、あるよ」


 店主が奥からいくつか持ってくる。


 テラは真剣だった。


 戦闘の時より真剣かもしれない。



 ノアはクッションの前で止まっていた。


 腕の中にはここちゃん。


 ふわふわした大きなクッションを見ている。


「気になるのか」


「気になる」


 即答だった。


 珍しい。


 ここちゃんもクッションを見ている。


 きゅる。


 気になるらしい。



 カインが隣へ並ぶ。


 人の流れを眺めながら歩く。


「気になるものでも?」


 レインは周囲を見回した。


 少し考える。


「いや」


「今のところはないかな」


 カインが小さく笑った。


「そうですか」


 少しの間。


 通りを歩く。


 賑やかだ。


 笑い声が聞こえる。


 呼び込みも聞こえる。


 子供が走る。


 楽しそうだった。


 レインはエールを一口飲む。


「みんな楽しそうだな」


 カインも周囲を見た。


「そうですね」


 そして少しだけ笑う。


「私もです」


 レインも笑った。


 それなら良かった。



「おう」


 聞き覚えのある声だった。


 振り向く。


 鍛冶屋の親父だ。


「レインじゃねぇか」


「よう」


「串は完売か?」


「ああ」


 レインは頷く。


「もう売り切れた」


 親父が舌打ちした。


「ちっ」


「食べ損ねたぜ」


 悔しそうだった。


 レインは思わず笑う。


「今度招待するよ」


「世話になってるしな」


 親父の顔が明るくなる。


「ならあいつらもだ!」


「頼んだぞ!」


 大工。


 家具屋。


 どうせその二人だろう。


 レインは苦笑した。


「ああ」


「分かった」


 親父は満足そうに手を振る。


 そして人混みの中へ消えていった。



 職人三人衆には世話になりっぱなしだ。


 寝台も。


 ポケットコイルも。


 色々作ってもらった。


 礼も兼ねて招待してもいいだろう。


 レインはエールを一口飲む。


 通りはまだ賑やかだ。


 笑い声。


 呼び込み。


 焼ける匂い。


 祭りのような空気。


 悪くない。


「次はどこ行く?」


 レインが聞く。


 アクセルは既に別の肉の屋台を見ていた。


 テラは髪紐を手に取っている。


 ノアはまだクッションを見ている。


 カインが少し笑った。


 月例市は、まだ終わりそうになかった。


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