王都からの使者
朝。
ギルド前の空気が張っていた。
中央通りに並ぶ赤と金の外套。
王都騎士団。
「来たな」
俺が呟くと、隣のアクセルが小さくうなずく。
「予定通りだ」
重い足音。
扉が開く。
鎧の擦れる音が、いつもより響く。
先頭の騎士が中央で止まる。
視線が真っ直ぐこちらへ。
「Dランク冒険者、レイン」
俺は一歩前に出る。
「はい」
「Sランク冒険者、アクセル」
「いる」
短い。
圧がある。
⸻
騎士の視線が後方へ動く。
「精霊大陸所属、ノア殿」
ノアが静かに前へ出る。
「応じる」
いつからいたんだよ…
⸻
騎士が封書を開く。
「精霊大陸の転移ダンジョンにて異常発生」
「調査中のS級冒険者が中央大陸へ転移」
ギルド内が静まる。
騎士は続ける。
「大陸を渡るには船だ。通常は数週間」
一拍。
「それが瞬時に発生した」
ざわ、と空気が揺れる。
俺は内心でうなずく。
この世界での移動事情はまだ詳しくない。
だが、海を越えるなら船しかない、とは聞いていた。
それを無視する転移。
確かに異常だ。
⸻
騎士が俺を見る。
「転移地点付近で発生した魔力暴走」
「スタンピード未遂の鎮静に協力した者として、事情聴取を行う」
協力、か。
間違っていない。
俺はあの場にいた。
アクセルが前に出て、俺は支援に回った。
だが――
ノアが静かに言う。
「コアの破壊は私だ」
事実を置く。
騎士はうなずく。
「把握している」
俺を見る。
「だが現場にいた全員の証言が必要だ」
巻き込まれだな。
でも、逃げられない、か。
⸻
ギルドマスターのドランが腕を組む。
「レインは戦闘要員じゃない」
騎士は首を横に振る。
「理解している」
「だが、あの場で生存し、動いた」
「それだけで十分だ」
過大評価はしていない。
だが軽視もしていない。
ちょうどいい。
⸻
背後から小声。
「白兎の庭、王都か……」
騎士が振り向く。
「……白兎?」
俺は肩をすくめる。
「街での呼び名です」
アクセルが補足する。
「仮だ」
騎士はそれ以上追及しない。
当然だ。
王都はそんな名前を知らない。
⸻
騎士が告げる。
「出立は明朝」
「王都までは馬車で四日」
四日。
遠い。
王国の中心。
隣町ではない。
⸻
ノアが淡々と言う。
「転移経路が解明されれば、再現も可能になる」
「それを王都は懸念している」
騎士は短く答える。
「その通りだ」
軍事利用。
侵入経路。
国家安全保障。
言葉にしなくても伝わる。
⸻
封書が手渡される。
重い。
だが命令ではない。
依頼だ。
俺はうなずく。
「分かりました」
アクセルの目が細くなる。
「同行する」
ノアも続ける。
「出頭する」
⸻
騎士団が去る。
鎧の音が遠ざかる。
静寂。
すぐにざわめきが戻る。
「海越え転移ってなんだよ……」
「王都へ呼び出しか。白兎の庭、出世だな」
出世じゃない。
巻き込まれだ。
だが、あの場にいたのは事実。
腹を括るしかないな。
⸻
アクセルが俺を見る。
「準備するぞ」
「ああ」
ノアは外を見たまま言う。
「異常は精霊大陸側だ」
「だが余波は広がる」
ここちゃんが、きゅる、と鳴く。
むぎが胸ポケットで小さく動く。
四日後には王都か。
巻き込まれただけだ。
だが、確かにその場にいた。
それで十分らしい。
⸻




