白兎の庭
ギルドの昼は騒がしい。
だが、今日は違う。
俺が扉を開けた瞬間。
一拍、静まる。
「……来たぞ」
小声。
いや普通に聞こえてる。
隣でアクセルが腕を組む。
いつもの顔。
ここちゃんは俺の腕の中。
むぎは胸ポケット。
そして少し後ろ。
ノアが静かに立っている。
なんでついてくる…?
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受付のミアが苦笑する。
「本日も視線がすごいですね」
「ですね…隠れたい」
俺は苦笑する。
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背後から声。
「おい、神輿」
振り向く。
中堅冒険者。
先日の件で完全に懐いた顔だ。
「だから神輿やめろ」
冒険者がニヤニヤしながら聞いてくる
「じゃあ何て呼べばいいんだよ」
ため息をつきながら答える
「レインでいいだろ」
さらに追求してくる
「瞬狼と兎と神輿で動いてるのに?」
周囲がくすっと笑う。
アクセルが真顔で言う。
「神輿ではない」
周囲の冒険者が問う
「じゃあ何だよ」
少し考える。
真面目な顔。
「……庭だ」
…は?庭?
みんな同じリアクション
「……は?」
アクセルは淡々と答える
「兎が中心」
「レインが外周」
「俺が守る構図だ」
真顔。
やめろ。意味わからん。
周囲が一瞬静まり――
「白兎の庭、か?」
誰かがぽつり。
沈黙。
ここちゃんが、きゅる。
その瞬間何かが決まった。
「それだ」
「白兎の庭」
「瞬狼従えてる兎の庭」
「神輿は庭師か?」
ニヤニヤ笑いながら冒険者たちが言う
「やめろ」
俺は内心頭を抱える
周囲に笑いが広がる。
悪意はない。
これ…完全にネタだ。
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ノアが壁にもたれたまま、やり取りを眺めている。
ノアの口元がわずかに歪む。
「呼称は識別に便利だ」
視線は掲示板。
「観測対象としても」
「観測せんでいい」
俺が言うと、ノアは肩を竦めた。
「参考にするだけだ」
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その日のうちに。
誰かが掲示板に書いた。
【白兎の庭(仮)】
(本体:兎)
(庭師:神輿)
やめろ。神輿は名前じゃない。
アクセルが腕を組み直す。
「悪くない」
「何がだ」
「守るべき対象が明確だ」
だからやめろ。
ここちゃんが俺を見上げる。
黒い瞳。
完全肯定。
周囲がまた撃沈。
「もうそれでいいだろ」
「サイファの白兎の庭」
「王都行っても名乗れよ」
「名乗らん」
即否定。
だが。
呼び名は止まらない。
依頼受注のとき。
「白兎の庭の皆さん」
と普通に言われる。
もう終わりだ。
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ノアが小さく呟く。
「パーティは未登録のままか」
「登録する気はない」
俺が言う。
「今はな」
ノアはそれ以上言わない。
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依頼を受けて外に出る。
背後から声。
「おーい、白兎の庭!」
反射で振り向く。
……もう慣れ始めている自分が怖い。
俺は小さく息を吐く。
「仮だからな」
アクセルが横で言う。
「名は、後から付くものだ」
ここちゃんが、きゅる。
胸ポケットで、むぎが小さく動く。
サイファ限定。
まだ、街だけの呼び名。
だが。
確実に、定着した。
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