発言回数調整
夕食後。
食卓にはお茶だけが残っていた。
アクセルはソファで横になっている。
ここちゃんはその横で丸くなっていた。
むぎはテラの肩。
ノアは静かに本を読んでいる。
カインがお茶を淹れる。
「どうぞ」
「ありがとう」
テラが受け取る。
短いやり取り。
以前より自然だ。
だが、まだ少しぎこちなさも残っている。
レインは湯飲みを傾けた。
まあ。
そのうち慣れるだろう。
そう思った時だった。
《関係構築率40%》
レインの手が止まる。
《テラ・カイン間》
《関係構築率40%》
「いたのか」
思わず声に出た。
全員がこちらを見る。
「誰がだ」
アクセルが顔だけ向ける。
「どうした?」
テラが首を傾げる。
「何かありましたか?」
カインも見る。
ノアも静かに視線を向けていた。
レインは固まる。
「あ」
しまった。
「いや」
「何でもない」
慌ててお茶を飲む。
全員が変な顔をした。
だが深くは聞かない。
すぐに元の空気へ戻った。
レインは小さく息を吐く。
(お前久しぶりに出てきたと思ったら何言ってんだ)
《発言回数調整》
(は?)
《失敗》
レインが額を押さえる。
(何してた)
《レベル上昇を試行》
(レベル?)
《レベルが上がりませんでした》
(お前レベルなんてあったのか?)
一拍。
《ありません》
レインは天井を見上げた。
(いやなんなんだよ)
返事はなかった。
その時だった。
むぎがテラの肩の上で動く。
キュ。
小さく鳴いて。
前足でテラの髪を引っ張った。
「ん?」
テラが顔を上げる。
「どうした?」
手を差し出す。
むぎは迷わずその手へ乗った。
そして。
食卓の上へ降ろされる。
キュ。
鼻がひくひくと動く。
何かを探すように。
ゆっくり歩き始めた。
全員の視線が集まる。
むぎは止まらない。
真っ直ぐ。
カインの方へ向かっていく。
カインが目を瞬く。
だが動かない。
むぎを驚かせないように。
じっとしている。
やがて。
小さな前足がカインの指にかかった。
むぎはそのまま袖へ。
腕へ。
よじ登っていく。
「え」
カインが固まる。
むぎは止まらない。
肩。
首元。
さらに上。
深青の髪を前足で掴む。
「え、え」
完全に追いついていない。
むぎは器用によじ登る。
数秒後。
頭の上へ到達した。
しっかりと髪を掴む。
落ちないように足を踏ん張る。
そして。
胸を張るように顔を上げた。
キュ!
満足そうだった。
食卓が静まる。
最初に口を開いたのはテラだった。
「……珍しいな」
むぎは基本的にレインの胸ポケットだ。
テラの肩に乗るようになったのも最近のこと。
そのむぎが。
自分からカインへ登った。
レインも少し驚いていた。
カインは頭の上を見ようとして失敗する。
「これは……どうすればいいのでしょう」
「そのままでいい」
アクセルが即答した。
「そうなのですか」
「ああ」
ノアも小さく頷く。
「問題ない」
問題ないらしい。
カインは困ったように笑った。
頭の上では。
むぎが相変わらず満足そうに髪を掴んでいた。




