行くぞ
翌朝。
部屋の扉を開けたカインは少し驚いた。
部屋の前にアクセルがいたからだ。
腕を組み、壁にもたれかかっている。
何故いるのかは分からない。
「おはようございます」
「ああ」
アクセルは短く返した。
そして。
ちらりと部屋の中を見る。
客用布団。
荷物。
確認するように視線を動かす。
それから踵を返した。
「行くぞ」
そのまま歩き出す。
説明はない。
補足もない。
カインは一瞬固まった。
「どちらへ?」
アクセルは振り返らない。
「行くぞ」
同じだった。
仕方なく後を追う。
途中で起きてきたレインとノアが合流した。
さらにテラも加わる。
「なんだ?」
レインが聞く。
アクセルは答えない。
そのまま歩く。
テラも歩きながら不思議そうに聞く。
「なんなんだ」
「わからん」
レインも諦めた。
しばらく歩き。
辿り着いたのは家具屋だった。
店主が顔を上げる。
そして。
全員を見る。
「またお前らか」
開口一番だった。
「今度はなんだ?」
アクセルが答える。
「寝台だ」
店主は数秒黙った。
それからカインを見る。
「ああ」
納得したように頷く。
「商人の彼か」
「戻ってきたんだね」
カインが少し目を見開く。
店主は店の奥を指差した。
「なら同じのでいいだろ」
そこにはレイン達が使っている寝台が並んでいた。
「改良版だ」
店主が胸を張る。
「前より良いぞ」
「そうか」
アクセルが頷く。
話がまとまる。
あまりにも早かった。
カインが苦笑する。
「客用布団はあるんですが」
「あれは客用だ」
アクセルだった。
店主も納得したように頷く。
「ああ」
「そうだな」
レインが吹き出した。
「なるほどな」
ようやく理解する。
客用布団はある。
だが。
客ではない。
だから寝台がいる。
アクセルの理屈だった。
「じゃあ次は枠だな」
レインが笑う。
「そうだな」
ノアも珍しく苦笑した。
「アクセルらしいな」
テラも微笑む。
そして全員で店を出る。
向かった先は大工の工房だった。
木を削る音が響いている。
大工が顔を上げた。
そして。
並んだ面々を見る。
一秒。
「商人のあんちゃんの枠だな?」
全員が止まった。
「話が早いな」
レインが笑う。
「もう慣れた」
大工は真顔だった。
「明日届ける」
「まだ何も言ってないぞ」
「分かる」
大工は木材へ視線を戻した。
「どうせ全員と同じだろ」
「そうだな」
アクセルが頷く。
カインまで吹き出した。
そして次は鍛冶屋だった。
工房へ入るなり。
鍛冶屋が顔を上げる。
全員を見る。
そして。
カインを見る。
「カインの分か?」
即答だった。
アクセルが頷く。
「ああ」
鍛冶屋が額を押さえる。
「前にも作っただろ」
「あれは客用だ」
アクセルだった。
鍛冶屋は盛大にため息を吐く。
「しゃーねぇな」
「明日だ」
レインが目を丸くする。
「早いな」
「お前らのせいだ」
鍛冶屋が即答した。
「は?」
「弟子どもまでバネ作りが早くなった」
真顔だった。
「最初は一本作るのに苦労してたんだぞ」
「今じゃ競争しやがる」
「数がおかしい」
沈黙。
そして。
レインが吹き出した。
ノアも肩を震わせる。
テラも笑う。
カインも。
気付けば笑っていた。
昨日。
魔王の話をした。
観測者の話もした。
だが。
今日は寝台だった。
枠だった。
バネだった。
そして。
それが少しだけ嬉しかった。




