おかえり
しばらく誰も口を開かなかった。
夜風だけが静かに流れる。
カインも何も言わない。
言うべきことはすべて話した。
あとは待つだけだった。
やがて。
アクセルが口を開いた。
「区切りはつけたんだな」
短い言葉だった。
カインは少しだけ目を見開く。
そして静かに頷いた。
「はい」
「つけました」
魔王の国。
観測者。
過去の役目。
迷い。
すべて。
自分なりに区切りをつけてここへ来た。
アクセルも頷く。
「ならそれでいい」
それだけだった。
問い詰めない。
責めない。
理由も聞かない。
ただ。
それだけで終わりだった。
レインは思わず苦笑する。
「なんか」
「情報が多すぎて途中混乱したけどな」
正直な感想だった。
魔王。
観測者。
魔人。
知らないことばかりだ。
だが。
ひとつだけ分かることがあった。
カインは自分で選んだ。
ここへ戻ることを。
白兎の庭を。
それなら。
もう十分だった。
「俺も」
レインは小さく笑う。
「それでいいと思う」
カインが僅かに目を伏せる。
ノアも静かに頷いた。
「問題ない」
短い言葉だった。
だが。
それだけで十分だった。
テラは腕を組む。
少しだけ考えるような顔をした。
それから肩をすくめる。
「皆がそれで良いなら」
「私も異論はない」
あっさりしたものだった。
だが。
それがテラらしかった。
夜風が吹く。
ここちゃんはレインの足元で眠っている。
むぎはテラの肩で丸くなっていた。
いつも通りだ。
何も変わらない。
レインはカインを見る。
改めて。
今度は迷わず言った。
「おかえり」
その一言だった。
カインの表情が揺れる。
泣き出しそうで。
それでも嬉しそうで。
言葉を探すように口を開く。
「はい」
少しだけ声が震えた。
「戻りました」
その返事を聞いて。
レインはようやく肩の力を抜いた。
夜空には星が見えていた。
静かな夜だった。
けれど。
それは少しだけ特別な夜だった。




