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揃った席


「さて」


 レインが立ち上がる。


「飯にするか」


 異論はなかった。


 色々聞きたいことはある。


 だが。


 それは飯を食いながらでもできる。


 レインは炭焼台を引っ張り出した。


 炭を入れる。


 火をつける。


 しばらくすると赤く色付いた炭から熱が立ち上り始めた。


 肉を串に刺す。


 野菜も刺す。


 炭焼台へ並べる。


 じゅう、と音が鳴った。


 香ばしい匂いが広がる。


 その間に食卓の準備も進む。


 皿を並べる。


 飲み物を置く。


 小皿も並べる。


 そして。


 スパイスの皿を置いた。


 カインがそれを見て小さく笑う。


「懐かしいですね」


「ああ」


 レインも笑う。


 カインと一緒に作ったスパイスだ。


 今でも時々作り足している。


 さらにその隣へ小瓶を並べた。


 トリュフ塩。


 レンネ塩。


 ズーラ塩。


 ジグレ塩。


 香草塩。


「増えましたね」


「なんだかんだな」


 焼き上がった串を皿へ移す。


「好きなの付けて食え」


 カインはまず塩を確かめていた。


 少し舐める。


 香りを嗅ぐ。


 それから串焼きを口へ運ぶ。


 香草塩。


 レンネ塩。


 トリュフ塩。


 順番に試していく。


 しばらくして。


 カインが穏やかに微笑んだ。


「香りが良いですね」


「だろ」


 レインも笑う。


 食事が始まる。


 話題も自然と移り変わっていった。


「そういえば」


 カインが口を開く。


「先程の長椅子ですが」


「ああ」


「もしかして、寝台と同じポケットコイルですか?」


「そうだ」


 レインが頷く。


「あれは寝台を作った時の技術を使ってる」


 アクセルが腕を組む。


「あれは凄い」


 妙に誇らしげだった。


「お前が作ったみたいな顔するな」


 レインが呆れる。


 テラが首を傾げた。


「そういえば、寝台はどういう経緯で作ったんだ?」


「ああ、テラは知らなかったな」


 レインは串焼きを皿へ移した。


「元々はカインが来た時だった」


「客用布団が固いって」


「アクセルが言い出した」


「事実だ」


 アクセルが即座に返す。


 カインが吹き出した。


「最初は酷かったですね」


「あれは酷かった」


 珍しくアクセルも同意した。


「横に揺れた」


「寝返りを打つと揺れましたね」


「揺れたな」


 レインも思い出す。


 職人達も苦労していた。


「三日で改良された」


 ノアが言った。


 全員が見る。


「覚えてるのか」


「観察していた」


 ノアは平然としていた。


 カインが小さく笑う。


「流石ですね」


「途中から職人達も意地だった」


「ああ」


 レインが頷く。


「完成した頃には全員本気だった」


 テラは感心したように頷く。


「そんな経緯だったのか」


「ああ」


 レインは笑った。


「それで、その技術を使って作ったのが長椅子だ」


「今度はテラが、本を読むと腰が痛いって言い出してな」


「事実だ」


 今度はテラだった。


 カインが興味深そうに長椅子を見る。


「だから座り心地がこんなに良いんですね」


「ああ」


 レインが頷く。


「ただ、こっちも最初から上手くいったわけじゃない」


「最初は膝裏が痛かった」


 テラが即答した。


「前の板が高くて膝裏に角が当たってな」


「失敗作だ」


 アクセルが言う。


「その失敗作に一番座ってただろ」


 レインが突っ込む。


 アクセルは否定しなかった。


 図星らしい。


 笑いが起きた。


「職人達は盛り上がっていたな」


 ノアがぽつりと言う。


「ああ」


 レインも頷く。


「『寝台より良い物を作る』ってな」


「『流行る』」


「『売れる』」


「『王都へ持っていけ』」


「そんな話ばかりだった」


「絶対に流行ると言っていた」


 ノアが真面目な顔で言う。


 余計に面白かった。


 また笑いが起きる。


 話はそこで終わらない。


 精霊大陸の話。


 テラとの出会い。


 最近見つけたポルチーニ。


 燻製。


 月例市。


 誰かが話す。


 誰かが笑う。


 また別の話になる。


 とりとめもない。


 だが楽しかった。


 ここちゃんはレインの足元でくつろぎ。


 むぎはテラの肩で丸くなっていた。


 気付けば夜も更けている。


 レインは何気なく食卓を見た。


 アクセルがいる。


 テラがいる。


 ノアがいる。


 カインがいる。


 そして自分。


 空いていた席はもう空いていなかった。


 ようやく。


 白兎の庭が揃った。


 そんな夜だった。


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