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空けておいた席


 カインを連れて家へ戻る。


 門をくぐる。


 玄関を開ける。


 どこか気まずい空気のまま、全員が中へ入った。


 カインの視線が部屋を巡る。


 食卓。


 棚。


 そして。


 ひとつの椅子で止まった。


 しばらく見つめる。


 誰も座っていない席。


 あの日のまま残された席。


「そのままなんですね」


 小さく呟く。


 レインは肩をすくめた。


「言ったろ」


 それだけだった。


 カインは一瞬だけ目を伏せる。


 そして小さく笑った。


「ありがとうございます」


 短い言葉だった。


 だが。


 それで十分だった。


 席は空いていた。


 あの日の約束通りに。


 カインの視線が動く。


 今度はテラへ向いた。


 そして。


 少しだけ目を細める。


 正確には。


 テラの肩だった。


 その上で。


 むぎがなぜか胸を張っていた。


 キュ。


 得意げだった。


「珍しいですね」


 カインが呟く。


「何がだ」


 レインが聞く。


「むぎが」


 一拍。


「レイン以外に懐くとは」


 レインもテラの肩を見る。


 むぎは相変わらず胸を張っていた。


「そういえばそうだな」


「基本ポケットだからな」


 テラも肩を見る。


「そうなのか」


「ああ」


 カインが頷く。


「むぎなりに認めているんでしょう」


 その言葉に。


 むぎはさらに胸を張った。


 なぜか誇らしげだった。


 少しだけ空気が和らぐ。


 そこで。


 テラがカインを見る。


「ああ」


 一拍。


「あなたがカインか」


 カインが首を傾げる。


 レインが説明した。


「ヴァンへ行く前にな」


「精霊大陸へ行ってた」


「その時の同行者だ」


 テラが軽く頷く。


「テラだ」


「今は白兎の庭の一員として世話になっている」


 カインも軽く頭を下げた。


「カインです」


「よろしくお願いします」


「よろしく頼む」


 少しだけぎこちない。


 だが悪い空気ではなかった。


「座れ」


 その時だった。


 アクセルが言った。


 全員が振り向く。


 アクセルはソファを指差している。


「え?」


 カインが固まる。


「座れ」


 もう一度言った。


 意味は分からない。


 だが本人は真面目だった。


 カインが困ったようにレインを見る。


 レインも困った。


「座ればいいんじゃないか」


 投げた。


 カインは苦笑しながらソファへ腰を下ろす。


 その瞬間。


「……おお」


 珍しい反応だった。


 アクセルの耳がぴくりと動く。


 期待している。


 ものすごく期待している。


「とても座り心地が良いですね」


 カインが素直に感想を口にした。


 アクセルが頷く。


 満足そうだった。


 非常に満足そうだった。


 たぶん今の感想を聞きたかっただけだ。


 その時。


 ぴょん。


 ここちゃんがソファへ飛び乗った。


 当然のようにカインの隣へ行く。


 くるり。


 そのまま丸くなった。


 きゅる。


 落ち着いたらしい。


 カインが思わず笑う。


「こちらも相変わらずですね」


「だな」


 レインも笑った。


 色々聞きたいことはある。


 確認したいこともある。


 だが。


 今はまだ誰も聞かなかった。


 カインが戻ってきた。


 それだけで十分な気がした。


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