席空けといたぞ
サイファへ戻って数日が経った。
薬草採取。
依頼。
食事。
変わらない日々だった。
夕方。
レインは食卓で香草を仕分けていた。
乾燥させる物。
そのまま使う物。
種類ごとに分けていく。
ノアはここちゃんを撫でていた。
時折手を止めては考え込む。
遺跡のことだろう。
まだ答えは出ていないらしい。
アクセルはソファで昼寝。
テラは本を読んでいる。
むぎはその肩の上だった。
いつもの光景。
静かな夕方だった。
その時。
むぎの耳がぴんと立った。
テラの肩の上で身を起こす。
同時に。
ここちゃんもクッションから立ち上がった。
耳を立てる。
庭の方を見ていた。
「どうした」
レインが聞く。
だが。
ここちゃんはそのまま庭へ駆け出した。
ぴょん。
ぴょん。
ぴょん。
迷いがない。
「なんだ?」
アクセルが身体を起こす。
テラも本を閉じた。
レインは立ち上がる。
全員が庭へ出た。
夕暮れだった。
茜色の光が庭を染めている。
門の前。
一人の人影が立っていた。
逆光で顔はよく見えない。
だが。
見間違えるはずがなかった。
「……カイン」
誰も動かなかった。
カインも。
レイン達も。
ただ立ち尽くす。
風が吹く。
庭の草が揺れる。
ここちゃんは門の近くで足を止めていた。
むぎはテラの肩の上からじっと見ている。
色々あった。
聞きたいこともある。
確かめたいこともある。
だが。
レインは小さく息を吐いた。
「席空けといたぞ」
短い言葉だった。
カインの目が少しだけ揺れる。
ほんの少し。
躊躇うように視線を落とした。
それから。
微笑んだ。
「はい」
「ありがとうございます」
それで十分だった。
カインが戻ってきた。
聞きたいことはたくさんある。
だが。
今はまだいい。
戻ってきた。
今はそれを喜ぼうと思った。




