遺跡の魔法陣
「これは……」
ノアが魔法陣を見つめる。
声が僅かに震えていた。
「知っているのか」
テラが聞く。
ノアは目を離さない。
「ああ」
一拍。
「転移迷宮の転移罠と同じだ」
俺は魔法陣を見る。
もう一度見る。
分からない。
全く分からない。
「精霊大陸のか」
テラが聞く。
「ああ」
ノアが頷く。
「私はこの魔法陣で転移した」
「気付いたらサイファだった」
その言葉で思い出す。
薬草採取。
急に走り出したむぎ。
追いかけた先に現れた迷宮。
中へ飛び込むむぎ。
魔物。
そして。
青い光。
魔法陣。
そこに現れたノア。
「……確かに似てるな」
俺は呟く。
だが分からない。
精霊大陸の転移迷宮の魔法陣が、なぜ王都近郊の遺跡にある。
ここに何か関係があるのか。
考えていると。
「サイファに現れた迷宮は」
アクセルがぽつりと呟く。
「……あれは変だった」
全員の視線が向く。
「何がだ」
「分からん」
アクセルは腕を組む。
「だが変だった」
短い言葉だった。
だが。
アクセルがそう言うのは珍しい。
「上手く言えん」
「だが嫌な感じがした」
それ以上は続かなかった。
アクセル自身も説明できないらしい。
ただ。
あの時感じた違和感だけは覚えているようだった。
「レイン」
テラが呼ぶ。
振り返る。
テラは左側の壁を見ていた。
文字だ。
壁一面に刻まれた古い文字。
「読めるのか」
「ああ」
テラが頷く。
「全部ではない」
「だが読める部分はある」
流石だった。
俺には模様にしか見えない。
テラは壁へ近付く。
指でなぞる。
欠けた部分。
残っている部分。
一つずつ確認していく。
「記録だな」
「記録?」
「ああ」
「日記のようなものではない」
「もっと大きな単位の記録だ」
テラはしばらく文字を追う。
そして眉を寄せた。
「断片的だ」
「何て書いてある」
俺が聞く。
テラは少し考えてから答えた。
「門」
一拍。
「位置」
さらに壁を見る。
「移動」
そこで首を傾げる。
「……管理者」
聞き慣れない単語だった。
「管理者?」
「ああ」
テラも困ったような顔をする。
「そう読める」
「だが意味は分からない」
俺も分からなかった。
ノアも何も言わない。
アクセルも同じらしい。
しばらく沈黙が落ちる。
俺は正面の壁画を見る。
一見すると岩のような形。
だが違う。
三角の印。
線。
配置。
意味があるのは分かる。
何の意味かが分からないだけだ。
ノアがゆっくりと壁画へ近付く。
魔法陣を見る。
壁画を見る。
そして文字を見る。
何度も視線を往復させる。
長い沈黙だった。
珍しく。
本当に珍しく。
ノアが考え込んでいた。
「……そういうことか」
小さく呟く。
「分かったのか」
俺が聞く。
ノアは首を横に振った。
「いや」
「分からない」
少しだけ安心した。
ノアまで分かっていたら俺だけ置いていかれるところだった。
だが。
ノアは再び魔法陣を見た。
「これは精霊術式ではない」
「精霊との共鳴を必要としない」
「独立した転移式だ」
「精霊大陸の転移迷宮では」
ノアが続ける。
「基本的に精霊術式を基盤とした陣しか確認されていない」
一拍。
「だからおかしい」
「何がだ」
「私にも分からない」
即答だった。
だが。
ノアの表情は真剣だった。
分からないからこそ気になる。
そんな顔だった。
ノアは正面の壁画を指差す。
次に魔法陣を見る。
そして文字を見る。
「門」
「位置」
「移動」
「管理者」
一拍。
「無関係とは思えない」
俺は正面の壁画を見る。
巨大な地図のようなもの。
意味不明な文字。
精霊大陸の転移迷宮と同じ魔法陣。
分かったことは少ない。
だが。
何かが繋がっている。
そんな気がした。
そして。
その中心にあるのが。
「管理者……か」
誰のことなのか。
何のことなのか。
それすら分からないまま。
その言葉だけが妙に頭に残った。




