宿の食堂
依頼書を畳む。
レオンハルトを見る。
「少し考えさせてくれ」
「ああ」
レオンハルトは頷いた。
「急ぐ依頼じゃない」
「何年も残っている」
一拍。
「今更数日増えても変わらん」
それもそうだった。
⸻
王都冒険者ギルドを出る。
日はまだ高い。
だが買い物は終わった。
依頼も受けていない。
「どうする」
アクセルが聞く。
「宿だな」
俺が答える。
「考えるにしても腹が減ってる」
アクセルが頷く。
重要だった。
⸻
宿を取る。
高級ではない。
安宿でもない。
いつも使う程度の宿だった。
荷物を置く。
夕方になる。
そのまま一階の食堂へ降りた。
⸻
料理が運ばれてくる。
肉。
パン。
スープ。
旅人向けらしい。
量は多かった。
ここちゃんは腕の中。
むぎは胸ポケット。
いつもの位置だった。
⸻
しばらく食べる。
そして。
俺は依頼書を机へ置いた。
「で」
一同を見る。
「どう思う」
⸻
「面倒そうだな」
最初に言ったのは俺だった。
依頼書を指で叩く。
「王都から南に一日」
「宝なし」
「素材なし」
「周辺には小物魔物が出る」
「学者案件」
一つずつ数える。
「受けたい理由が見当たらん」
アクセルが頷く。
「同感だ」
珍しく意見が一致した。
⸻
「そもそも」
俺は依頼書を見る。
「これ、白兎の庭への依頼じゃないよな」
アクセルが眉を上げた。
「どういう意味だ」
「レオンハルトが依頼書を出した理由だ」
俺はテラを見る。
「テラがいたからだろ」
⸻
「俺達だけなら出してない」
「精霊大陸騎士団の元副団長がいた」
「だから出てきた依頼だ」
テラは黙って聞いている。
ノアも否定しない。
たぶん間違っていない。
⸻
「なら」
俺は肩をすくめる。
「今回はテラへの依頼に近い」
「テラの意思を優先する」
⸻
視線が集まる。
テラは少し考えた。
依頼書を見る。
そして。
「興味はある」
静かに答えた。
⸻
「何か分かるかもしれない」
「分からないかもしれない」
「だが見てみたい」
無理に受けたい訳ではない。
ただ純粋な興味だった。
⸻
「それに」
テラが続ける。
「白兎の庭に加わってから」
「まだ成果も上げていない」
俺は思わず止まる。
「成果?」
「ああ」
「丁度良い機会だ」
⸻
「いや」
俺は首を傾げた。
「ソファ作っただろ」
沈黙。
テラが止まる。
⸻
「……あれは違う」
真顔だった。
アクセルが吹き出す。
ノアもわずかに視線を逸らした。
たぶん笑った。
⸻
「十分成果だと思うが」
「違う」
即答だった。
どうやら本人の中では別らしい。
⸻
そこで。
ノアが口を開く。
「私も興味がある」
予想通りだった。
「理由は?」
俺が聞く。
「未知だからだ」
簡潔だった。
いつものノアだった。
⸻
俺は依頼書を見る。
宝はない。
素材もない。
金になる話でもない。
だから何年も残っている。
だが。
テラは興味を持った。
ノアも興味を持った。
⸻
今回ばかりは。
最初から俺達の依頼ではなかった気がする。
⸻
「分かった」
俺は依頼書を畳む。
「テラが行きたいなら行こう」
テラが小さく頷く。
⸻
「気負う必要もない」
「何か分かれば儲けものだ」
「何も分からなくても死ぬわけじゃない」
アクセルが頷く。
「それくらいで良いな」
⸻
こうして。
何年も塩漬けになっていた依頼を受けることになった。
宝の匂いはしない。
金の匂いもしない。
だが。
ノアとテラは少しだけ楽しそうだった。




