塩漬けの依頼
王都冒険者ギルド。
扉を開く。
相変わらず広い。
人も多い。
サイファとは規模が違う。
冒険者達の視線が一瞬だけこちらへ向く。
そして戻る。
前ほど騒がれない。
慣れたのか。
興味が薄れたのか。
どちらでも良かった。
⸻
「レオンハルトはいるか」
受付で聞く。
「はい」
受付嬢が頷く。
「執務室におります」
名前を告げる。
すぐに案内された。
⸻
扉を叩く。
「入れ」
低い声が返る。
中へ入る。
執務机。
積まれた書類。
その向こうで。
レオンハルトが顔を上げた。
「来たか」
短い言葉だった。
だが。
歓迎はされている。
「久しぶりです」
俺が手を上げる。
「王都へ来ていたのか」
「買い物ついでにな」
レオンハルトが頷く。
そして。
視線が横へ流れた。
⸻
テラ。
一瞬だけ。
レオンハルトの目が細くなる。
「……そうか」
何かを思い出しかけたような顔だった。
だが。
それ以上は言わない。
⸻
「そういや初めてだったな」
俺が言う。
「テラだ」
テラが一歩前に出る。
「テラ」
短く名乗る。
レオンハルトは頷く。
だが。
まだ何か引っ掛かっている顔だった。
「精霊大陸騎士団の元副団長だ」
俺が続ける。
数秒。
沈黙。
そして。
「……ああ」
レオンハルトが頷いた。
「そうか」
ようやく繋がったらしい。
「風弓のテラか」
「昔の話だ」
テラが答える。
「名前くらいは聞く」
レオンハルトはそれ以上深掘りしなかった。
⸻
代わりに。
俺を見る。
「どれくらい滞在する」
「二、三日かな」
俺が答える。
「買い物が目的だしな」
「そうか」
レオンハルトは引き出しを開けた。
中から一枚の依頼書を取り出す。
紙は少し古かった。
⸻
「気が向けばでいい」
机の上へ置く。
俺が依頼書を見る。
「遺跡調査?」
「ああ」
レオンハルトが頷く。
「昔からある依頼だ」
⸻
「学者連中から定期的に調査依頼が出る」
「調査団も何度か入っている」
「成果は?」
「特になし」
即答だった。
⸻
「宝は出ない」
「希少素材もない」
「魔物は多少出る」
「だから冒険者が嫌がる」
レオンハルトが肩をすくめる。
「割に合わんからな」
それは分かる。
⸻
「何年物だ」
「俺がギルドマスターになる前からある」
長かった。
かなり長かった。
⸻
「ただ」
レオンハルトの視線がテラへ向く。
「精霊大陸騎士団は遺跡調査任務も担うと聞く」
「ああ」
テラが頷く。
「経験はある」
「なら」
レオンハルトは依頼書を軽く叩いた。
「何か見えるかもしれん」
一拍。
「もちろん気が向けばだがな」
⸻
俺は依頼書を見る。
古い。
かなり古い。
学者案件。
宝なし。
素材なし。
魔物あり。
冒険者が嫌がる理由しか書いていなかった。
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「面倒そうだな」
思わず本音が出る。
アクセルが笑う。
「珍しく正しい」
「失礼だな」
だが。
否定はできなかった。
⸻
その横で。
ノアが依頼書を覗き込む。
珍しく興味を示している。
テラも黙って目を通していた。
レオンハルトは急かさない。
ただ椅子に座ったまま待っている。
どうするか。
決めるのは俺達だった。




