ポルチーニクリームパスタ
市から戻った頃には、日が傾き始めていた。
両手にはミルクとチーズ。
ついでに少しだけ追加の食材も買ってきた。
拠点の扉を開ける。
全員いた。
当然である。
「戻ったか」
アクセルが言う。
「戻った」
「それで」
テラが聞く。
「そこまで慌てる理由は何だった」
俺は机の上へ荷物を置く。
「晩飯だ」
全員が黙った。
「晩飯だ」
もう一度言う。
アクセルが言う。
「料理のために走ったのか」
「料理のために走った」
即答だった。
ノアが小さく頷く。
「予測通り」
何を予測していた。
⸻
台所へ向かう。
ポルチーニを取り出す。
改めて見ても立派だった。
むぎが机の上から見ている。
キュ。
どこか誇らしげだ。
発見者だからだろう。
その机の下で。
ここちゃんも、きゅる、と鳴いた。
なぜか同じ顔をしている。
思わず笑う。
「お前もか」
ここちゃんは満足そうだった。
⸻
まずは鍋へ水を張る。
火をつける。
乾燥麺を取り出して準備する。
その間にソースだ。
フィルニルを細かく刻む。
油を引いた鍋へ入れる。
じゅっ。
香りが立つ。
続いてポルチーニ。
厚めに切ったものを入れる。
さらに音が鳴る。
香ばしい匂いが広がった。
「ほう」
テラが近付く。
「強いな」
アクセルも来る。
ノアは最初から近くにいた。
気付けば全員集まっていた。
香りに釣られたらしい。
⸻
ポルチーニへ火が通る。
小麦粉を加える。
混ぜる。
さらにミルク。
白い液体が広がる。
ゆっくり混ぜる。
少しずつとろみが付いてくる。
そこへ削ったチーズ。
溶ける。
混ざる。
香りがさらに濃くなる。
「これだ」
思わず呟いた。
懐かしい。
前世の記憶にある香りだった。
⸻
鍋の湯が沸く。
乾燥麺を入れる。
しばらく待つ。
柔らかくなった麺を引き上げる。
そのままソースへ。
絡める。
白いソースが麺を包む。
完成だった。
⸻
皿へ盛る。
机へ並べる。
香りが広がる。
誰も喋らない。
視線だけが集まる。
「食っていいか」
アクセルだった。
「いいぞ」
⸻
最初に食べたのはアクセルだった。
一口。
咀嚼。
止まる。
「どうだ」
俺が聞く。
アクセルはもう一口食べた。
「美味い」
短い。
だが十分だった。
⸻
テラも食べる。
少し目を見開いた。
そしてもう一口。
さらにもう一口。
「良いな」
珍しく即答だった。
「気に入ったか」
「認めた」
長椅子と同じ返事だった。
⸻
ノアも食べる。
数秒考える。
「香りが良い」
らしい。
最大級の賛辞である。
⸻
俺も食べる。
香り。
旨味。
クリーム。
チーズ。
全部が混ざる。
前世で食べたものと同じではない。
材料も違う。
作り方も違う。
それでも。
十分だった。
「美味いな」
思わず呟く。
誰も否定しなかった。
⸻
ふと視線を向ける。
ここちゃんは野菜をもぐもぐ食べていた。
むぎも野菜を頬張っている。
ポルチーニクリームパスタには見向きもしない。
「興味ないのか」
きゅる。
キュ。
即答だった。
食べ慣れたものの方が良いらしい。
⸻
俺は苦笑する。
そして。
小さな袋から木の実を一粒取り出した。
むぎの前へ置く。
「見つけたのはむぎだからな」
むぎが固まる。
数秒。
木の実を見る。
俺を見る。
もう一度木の実を見る。
そして。
キュ!
嬉しそうに抱え込んだ。




