白兎長椅子
テラの言葉を聞いたあと。
鍛冶屋。
大工。
家具屋。
三人とも満足そうだった。
長椅子を見る。
誰も喋らない。
しばらく眺める。
そして。
「惜しいな」
最初に口を開いたのは家具屋だった。
レインが顔を上げる。
「何がだ」
「素材だ」
即答だった。
「十分だろ」
「十分じゃない」
これも即答だった。
⸻
家具屋は長椅子へ近付く。
座面を撫でる。
背もたれを見る。
肘置きを押す。
「王都ならもっと良い布がある」
「綿もだ」
大工も頷く。
「木もあるな」
「もっと良い木なら軽い」
「丈夫だ」
鍛冶屋も腕を組む。
「金具も変えられる」
「金細工を付けてもいいな」
三人とも真面目だった。
レインだけが分からない。
「十分だろ」
「十分じゃない」
家具屋が二度目の即答をした。
⸻
「革も使える」
家具屋が言う。
「大きな獣の革なら見栄えもいい」
「肘置きも豪華にできるな」
大工が言う。
鍛冶屋も頷いた。
「金細工があれば見栄えも良くなる」
話がどんどん大きくなる。
「高そうだな」
レインが呟く。
「高いな」
家具屋が頷く。
「貴族向けだろうな」
大工が言う。
「普通の家じゃ厳しい」
鍛冶屋も頷いた。
⸻
三人は長椅子を見る。
少しだけ真面目な顔になる。
そして。
「いや」
家具屋が呟いた。
二人が顔を上げる。
「ここまで仕上げれば」
座面へ手を置く。
「王へ献上しても恥ずかしくない」
沈黙。
大工も長椅子を見る。
肘置きを撫でる。
「悪くないな」
鍛冶屋も頷いた。
「喜ぶだろうな」
「おい」
レインが止める。
三人とも聞いていない。
⸻
「名前もいるな」
大工が言った。
「いるな」
鍛冶屋も頷く。
「いる」
家具屋も頷いた。
嫌な予感しかしない。
「待て」
レインが言う。
三人とも聞いていない。
「何がいい」
鍛冶屋が聞く。
「長椅子じゃ味気ないな」
大工も言う。
三人とも考え始めた。
⸻
その時。
ぴょん。
ここちゃんだった。
長椅子へ飛び乗る。
中央。
一番良い場所。
当然のように座る。
少し沈む。
そして。
きゅる。
満足そうだった。
三人の視線が集まる。
長椅子。
ここちゃん。
長椅子。
ここちゃん。
もう嫌な予感しかしない。
⸻
家具屋が頷いた。
「白兎長椅子だな」
「悪くない」
大工も頷く。
「分かりやすい」
鍛冶屋も賛成した。
「待て」
レインが言う。
三人とも聞いていない。
「白兎長椅子」
「白兎長椅子だな」
「白兎長椅子だ」
勝手に決まった。
⸻
テラの肩からむぎの声。
キュ。
何か言いたそうだった。
だが。
もう遅い。
名前は決まったらしい。
レインはため息を吐く。
「好きにしろ」
三人の目が輝いた。
しまった。
言ってはいけない言葉だった。
⸻
家具屋。
大工。
鍛冶屋。
三人はすでに次の話を始めている。
王都。
献上品。
高級版。
革。
木材。
金細工。
聞いているだけで頭が痛くなる。
レインは聞くのをやめた。
長椅子へ座る。
背中を預ける。
確かに良い。
便利だ。
それで十分だった。
その横では。
ここちゃんが目を細めている。
そして職人達だけが。
すでにもっと先を見ていた。




