表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
152/158

職人会議


 サイファの鍛冶屋。


 店の奥。


 二度目の回収となった長椅子が置かれていた。


 鍛冶屋。


 大工。


 家具屋。


 三人がそれを囲んでいる。


 誰も帰らない。


 誰も仕事を始めない。


 ただ長椅子を見ていた。


「で」


 鍛冶屋が口を開く。


「どうする」


「隙間は埋める」


 家具屋が即答した。


 座面を叩く。


「幅を広げる」


「それで終わるか?」


 大工が聞く。


「終わらん」


 家具屋は首を振った。


「綿は寄る」


「確かに」


「だから中を縫い目で区切る」


 いくつかに分ける。


 そうすれば中身は動きにくい。


 長く使っても形を保てる。


 大工も頷いた。


「それなら隙間は消えるな」



 だが。


 家具屋の視線はすでに別の場所へ向いていた。


 背もたれ。


 紐で固定された長クッション。


 押す。


 ずれる。


 引く。


 やっぱりずれる。


「駄目だな」


「紐か」


 鍛冶屋が言った。


「ああ」


 家具屋は頷く。


「長く使えば必ずズレる」


「そりゃそうだ」


 大工も同意した。


 読書。


 昼寝。


 寄りかかる。


 毎日使えば。


 いつか紐は負ける。



「全部包むか」


 鍛冶屋が言った。


 家具屋は少し考える。


 そして首を振った。


「抜けるな」


「抜ける?」


「鋲だ」


 家具屋は長椅子を指差した。


「全部まとめて引っ張れば力が集中する」


「毎日座るんだぞ」


「布だけなら裂ける」


 鍛冶屋も頷いた。


「確かにな」


 大工が言う。


「分けるか」


「何を」


「背と座面だ」


 背もたれ。


 座面。


 別々に張る。


 別々に固定する。


 家具屋が頷く。


「その方が修理もしやすい」


「張り直しも楽だな」


 三人とも納得した。



「固定は」


 大工が聞く。


 鍛冶屋が答える。


「鋲だ」


「鋲だけじゃ駄目だろ」


 家具屋が即座に返した。


「布が裂ける」


「じゃあどうする」


 家具屋は少し考えた。


 そして。


「革を当てる」


「革?」


「ああ」


 鋲を打つ場所だけ。


 裏へ革を縫い付ける。


「それなら力が分散する」


「裂けにくい」


 鍛冶屋が腕を組む。


「なるほどな」


 大工も頷いた。


 それなら保つ。


 長く使える。



 だが。


 家具屋はまだ終わらなかった。


 背もたれクッションを叩く。


「綿も増やしたい」


「まだ入れるのか」


 鍛冶屋が呆れた。


「入れる」


 家具屋は即答した。


「もっと柔らかくなる」


「もっと背中を預けられる」


 大工も反対しなかった。


 だが。


「前へ出るな」


 そう言った。


「前?」


 鍛冶屋が聞く。


 大工は背もたれを指差した。


「綿を増やせば厚くなる」


「厚くなれば身体が押される」


 今でも少しそうだ。


 さらに増やせば。


 もっと前へ出る。


 家具屋も頷いた。


「確かにな」



 大工が長椅子の後ろへ回る。


 背板を見る。


 手を当てる。


 少し考える。


 そして。


「角度変えるか」


 二人が顔を上げた。


「角度?」


「ああ」


 大工は背板を叩く。


「少し寝かせる」


「なるほど」


 家具屋が頷く。


「それなら綿を増やせる」


「背中も預けやすくなる」


 鍛冶屋も納得した。


「悪くないな」



 しばらく沈黙。


 三人とも長椅子を見る。


 最初とは別物になりつつあった。


 だが。


 誰も止めようとはしない。


 むしろ。


 家具屋がぽつりと言った。


「肘置きも欲しいな」


 鍛冶屋が顔を上げる。


「肘置き?」


「本を読むだろ」


「腕を置く場所が欲しい」


 大工も頷いた。


「確かにあった方が楽だな」


「昼寝にもいい」


 鍛冶屋まで賛成した。


「木のままか」


 大工が聞く。


 家具屋は首を振る。


「クッションも付ける」


 即答だった。


「付けるのか」


「付ける」


 家具屋は譲らない。


「肘も疲れる」


 三人とも少し考えた。


 そして。


「ああ」


 納得した。



 長椅子を見る。


 座面。


 背もたれ。


 肘置き。


 補強革。


 金具。


 幌布。


 綿。


 最初の姿からはだいぶ変わった。


「ところで」


 鍛冶屋が口を開く。


「何で俺達こんな真面目にやってるんだ」


 大工が笑う。


「知らん」


 家具屋も笑った。


「面白いからだろ」


 三人とも少し笑う。


 そして。


 誰からともなく立ち上がった。


「やるか」


「ああ」


「やるか」


 長椅子は静かに置かれていた。


 だが。


 三人の目には。


 もう完成した姿が見えているらしかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ