職人会議
サイファの鍛冶屋。
店の奥。
二度目の回収となった長椅子が置かれていた。
鍛冶屋。
大工。
家具屋。
三人がそれを囲んでいる。
誰も帰らない。
誰も仕事を始めない。
ただ長椅子を見ていた。
「で」
鍛冶屋が口を開く。
「どうする」
「隙間は埋める」
家具屋が即答した。
座面を叩く。
「幅を広げる」
「それで終わるか?」
大工が聞く。
「終わらん」
家具屋は首を振った。
「綿は寄る」
「確かに」
「だから中を縫い目で区切る」
いくつかに分ける。
そうすれば中身は動きにくい。
長く使っても形を保てる。
大工も頷いた。
「それなら隙間は消えるな」
⸻
だが。
家具屋の視線はすでに別の場所へ向いていた。
背もたれ。
紐で固定された長クッション。
押す。
ずれる。
引く。
やっぱりずれる。
「駄目だな」
「紐か」
鍛冶屋が言った。
「ああ」
家具屋は頷く。
「長く使えば必ずズレる」
「そりゃそうだ」
大工も同意した。
読書。
昼寝。
寄りかかる。
毎日使えば。
いつか紐は負ける。
⸻
「全部包むか」
鍛冶屋が言った。
家具屋は少し考える。
そして首を振った。
「抜けるな」
「抜ける?」
「鋲だ」
家具屋は長椅子を指差した。
「全部まとめて引っ張れば力が集中する」
「毎日座るんだぞ」
「布だけなら裂ける」
鍛冶屋も頷いた。
「確かにな」
大工が言う。
「分けるか」
「何を」
「背と座面だ」
背もたれ。
座面。
別々に張る。
別々に固定する。
家具屋が頷く。
「その方が修理もしやすい」
「張り直しも楽だな」
三人とも納得した。
⸻
「固定は」
大工が聞く。
鍛冶屋が答える。
「鋲だ」
「鋲だけじゃ駄目だろ」
家具屋が即座に返した。
「布が裂ける」
「じゃあどうする」
家具屋は少し考えた。
そして。
「革を当てる」
「革?」
「ああ」
鋲を打つ場所だけ。
裏へ革を縫い付ける。
「それなら力が分散する」
「裂けにくい」
鍛冶屋が腕を組む。
「なるほどな」
大工も頷いた。
それなら保つ。
長く使える。
⸻
だが。
家具屋はまだ終わらなかった。
背もたれクッションを叩く。
「綿も増やしたい」
「まだ入れるのか」
鍛冶屋が呆れた。
「入れる」
家具屋は即答した。
「もっと柔らかくなる」
「もっと背中を預けられる」
大工も反対しなかった。
だが。
「前へ出るな」
そう言った。
「前?」
鍛冶屋が聞く。
大工は背もたれを指差した。
「綿を増やせば厚くなる」
「厚くなれば身体が押される」
今でも少しそうだ。
さらに増やせば。
もっと前へ出る。
家具屋も頷いた。
「確かにな」
⸻
大工が長椅子の後ろへ回る。
背板を見る。
手を当てる。
少し考える。
そして。
「角度変えるか」
二人が顔を上げた。
「角度?」
「ああ」
大工は背板を叩く。
「少し寝かせる」
「なるほど」
家具屋が頷く。
「それなら綿を増やせる」
「背中も預けやすくなる」
鍛冶屋も納得した。
「悪くないな」
⸻
しばらく沈黙。
三人とも長椅子を見る。
最初とは別物になりつつあった。
だが。
誰も止めようとはしない。
むしろ。
家具屋がぽつりと言った。
「肘置きも欲しいな」
鍛冶屋が顔を上げる。
「肘置き?」
「本を読むだろ」
「腕を置く場所が欲しい」
大工も頷いた。
「確かにあった方が楽だな」
「昼寝にもいい」
鍛冶屋まで賛成した。
「木のままか」
大工が聞く。
家具屋は首を振る。
「クッションも付ける」
即答だった。
「付けるのか」
「付ける」
家具屋は譲らない。
「肘も疲れる」
三人とも少し考えた。
そして。
「ああ」
納得した。
⸻
長椅子を見る。
座面。
背もたれ。
肘置き。
補強革。
金具。
幌布。
綿。
最初の姿からはだいぶ変わった。
「ところで」
鍛冶屋が口を開く。
「何で俺達こんな真面目にやってるんだ」
大工が笑う。
「知らん」
家具屋も笑った。
「面白いからだろ」
三人とも少し笑う。
そして。
誰からともなく立ち上がった。
「やるか」
「ああ」
「やるか」
長椅子は静かに置かれていた。
だが。
三人の目には。
もう完成した姿が見えているらしかった。




