ふくらはぎが挟まる
数日後。
再び荷車が拠点の前に止まった。
レインが外へ出る。
鍛冶屋。
大工。
家具屋。
やはり全員いた。
「また全員か」
「気になる」
鍛冶屋が言った。
「気になるな」
大工も頷く。
「気になる」
家具屋も頷いた。
レインはもう聞かなかった。
⸻
長椅子が運び込まれる。
前回との違いは一つ。
手前の木枠。
そこだけ少し低くなっていた。
「これで膝裏は当たらんはずだ」
大工が自信ありげに言う。
レインも座ってみる。
確かに。
前回の違和感は消えていた。
「悪くないな」
「だろう」
大工が少し得意げだった。
コイルを並べる。
その上へ長クッションを置く。
背もたれクッションも設置。
紐で固定。
家具屋はまた微妙な顔をした。
だがまだ何も言わない。
⸻
「では」
テラが座る。
本を開く。
読む。
ページをめくる。
読む。
まためくる。
読む。
さらに読む。
鍛冶屋が呟いた。
「長いな」
「読書だからな」
大工が答える。
「前回も長かった」
家具屋も覚えていた。
むぎは胸ポケットから顔を出している。
ここちゃんは長椅子の周りをうろうろしていた。
⸻
しばらくして。
テラが本を閉じる。
立ち上がった。
レインが聞く。
「どうだ」
「悪くない」
三人が少し笑う。
今度こそか。
そう思った。
「ただ」
三人の笑顔が消えた。
「ふくらはぎが挟まる」
沈黙。
「は?」
鍛冶屋が言った。
「は?」
大工も言った。
「は?」
家具屋も言った。
テラは長椅子を指差した。
「ここだ」
⸻
全員で確認する。
レインが座る。
立ち上がる。
「……あ」
分かった。
前回。
膝裏へ当たっていた木枠。
それを低くした。
その結果。
今度は布越しにポケットコイルの側面が近くなっている。
座った姿勢によっては。
ふくらはぎの肉が少し沈み込み。
コイルと布の隙間へ入り込む。
そして立ち上がる時。
引っ掛かる。
「ほんとだ」
「ほんとだじゃねぇ」
鍛冶屋が突っ込んだ。
大工も試す。
座る。
立つ。
「あー」
納得した。
「枠を下げたせいだな」
「そうだな」
レインも頷く。
膝裏問題は解決した。
だが。
今度はコイルが近すぎた。
⸻
家具屋も試す。
座る。
立つ。
少し引っ掛かった。
「あー……」
今度は家具屋が嫌そうな顔をした。
「これは埋めるしかないな」
「埋める?」
レインが聞く。
「クッションの幅を広げる」
家具屋は座面を叩いた。
「今は必要最低限だ」
「広げて隙間を潰す」
なるほど。
レインは頷く。
だが。
家具屋は続けた。
「それだけじゃ駄目だ」
「何でだ」
「綿は寄る」
長く使えば。
座れば。
押される。
中の綿は少しずつ動く。
「だから中を縫い目で区切る」
家具屋は指で線を描いた。
「いくつかに分ける」
「そうすれば綿は逃げない」
「なるほど」
「最初からそうするべきだった」
家具屋は少し悔しそうだった。
⸻
だが。
家具屋の視線はまだ別の場所を見ていた。
背もたれ。
長いクッション。
紐で固定されたそれを押す。
ぐらり。
少し動いた。
もう一度押す。
やはり動く。
「あー……」
今日三回目だった。
「今度は何だ」
鍛冶屋が聞く。
「紐だな」
家具屋が答える。
「紐?」
「長く使えばズレる」
背もたれを指差す。
「ほら」
少し傾いていた。
レインも触る。
確かに動く。
「なるほど」
「なるほどじゃない」
家具屋が即答した。
「こっちも直す」
⸻
しばらく三人が長椅子を眺める。
鍛冶屋。
大工。
家具屋。
誰も帰ろうとしない。
「持って帰るか」
最初に言ったのは大工だった。
「またか」
鍛冶屋が言う。
「まただな」
家具屋も頷いた。
二度目である。
長椅子は再び運び出された。
鍛冶屋が持つ。
大工が持つ。
家具屋が持つ。
三人とも文句を言いながら運んでいた。
だが。
どこか楽しそうだった。
⸻
荷車が見えなくなる。
レインは腕を組んだ。
「もう少しか」
「そうだな」
テラも頷く。
その時。
ここちゃんが長椅子のあった場所へやってきた。
きょろ。
きょろ。
見回す。
ない。
探す。
やっぱりない。
「きゅる……」
また消えた。
そんな顔だった。




