表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
151/161

ふくらはぎが挟まる


 数日後。


 再び荷車が拠点の前に止まった。


 レインが外へ出る。


 鍛冶屋。


 大工。


 家具屋。


 やはり全員いた。


「また全員か」


「気になる」


 鍛冶屋が言った。


「気になるな」


 大工も頷く。


「気になる」


 家具屋も頷いた。


 レインはもう聞かなかった。



 長椅子が運び込まれる。


 前回との違いは一つ。


 手前の木枠。


 そこだけ少し低くなっていた。


「これで膝裏は当たらんはずだ」


 大工が自信ありげに言う。


 レインも座ってみる。


 確かに。


 前回の違和感は消えていた。


「悪くないな」


「だろう」


 大工が少し得意げだった。


 コイルを並べる。


 その上へ長クッションを置く。


 背もたれクッションも設置。


 紐で固定。


 家具屋はまた微妙な顔をした。


 だがまだ何も言わない。



「では」


 テラが座る。


 本を開く。


 読む。


 ページをめくる。


 読む。


 まためくる。


 読む。


 さらに読む。


 鍛冶屋が呟いた。


「長いな」


「読書だからな」


 大工が答える。


「前回も長かった」


 家具屋も覚えていた。


 むぎは胸ポケットから顔を出している。


 ここちゃんは長椅子の周りをうろうろしていた。



 しばらくして。


 テラが本を閉じる。


 立ち上がった。


 レインが聞く。


「どうだ」


「悪くない」


 三人が少し笑う。


 今度こそか。


 そう思った。


「ただ」


 三人の笑顔が消えた。


「ふくらはぎが挟まる」


 沈黙。


「は?」


 鍛冶屋が言った。


「は?」


 大工も言った。


「は?」


 家具屋も言った。


 テラは長椅子を指差した。


「ここだ」



 全員で確認する。


 レインが座る。


 立ち上がる。


「……あ」


 分かった。


 前回。


 膝裏へ当たっていた木枠。


 それを低くした。


 その結果。


 今度は布越しにポケットコイルの側面が近くなっている。


 座った姿勢によっては。


 ふくらはぎの肉が少し沈み込み。


 コイルと布の隙間へ入り込む。


 そして立ち上がる時。


 引っ掛かる。


「ほんとだ」


「ほんとだじゃねぇ」


 鍛冶屋が突っ込んだ。


 大工も試す。


 座る。


 立つ。


「あー」


 納得した。


「枠を下げたせいだな」


「そうだな」


 レインも頷く。


 膝裏問題は解決した。


 だが。


 今度はコイルが近すぎた。



 家具屋も試す。


 座る。


 立つ。


 少し引っ掛かった。


「あー……」


 今度は家具屋が嫌そうな顔をした。


「これは埋めるしかないな」


「埋める?」


 レインが聞く。


「クッションの幅を広げる」


 家具屋は座面を叩いた。


「今は必要最低限だ」


「広げて隙間を潰す」


 なるほど。


 レインは頷く。


 だが。


 家具屋は続けた。


「それだけじゃ駄目だ」


「何でだ」


「綿は寄る」


 長く使えば。


 座れば。


 押される。


 中の綿は少しずつ動く。


「だから中を縫い目で区切る」


 家具屋は指で線を描いた。


「いくつかに分ける」


「そうすれば綿は逃げない」


「なるほど」


「最初からそうするべきだった」


 家具屋は少し悔しそうだった。



 だが。


 家具屋の視線はまだ別の場所を見ていた。


 背もたれ。


 長いクッション。


 紐で固定されたそれを押す。


 ぐらり。


 少し動いた。


 もう一度押す。


 やはり動く。


「あー……」


 今日三回目だった。


「今度は何だ」


 鍛冶屋が聞く。


「紐だな」


 家具屋が答える。


「紐?」


「長く使えばズレる」


 背もたれを指差す。


「ほら」


 少し傾いていた。


 レインも触る。


 確かに動く。


「なるほど」


「なるほどじゃない」


 家具屋が即答した。


「こっちも直す」



 しばらく三人が長椅子を眺める。


 鍛冶屋。


 大工。


 家具屋。


 誰も帰ろうとしない。


「持って帰るか」


 最初に言ったのは大工だった。


「またか」


 鍛冶屋が言う。


「まただな」


 家具屋も頷いた。


 二度目である。


 長椅子は再び運び出された。


 鍛冶屋が持つ。


 大工が持つ。


 家具屋が持つ。


 三人とも文句を言いながら運んでいた。


 だが。


 どこか楽しそうだった。



 荷車が見えなくなる。


 レインは腕を組んだ。


「もう少しか」


「そうだな」


 テラも頷く。


 その時。


 ここちゃんが長椅子のあった場所へやってきた。


 きょろ。


 きょろ。


 見回す。


 ない。


 探す。


 やっぱりない。


「きゅる……」


 また消えた。


 そんな顔だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ