揺れるサイファと王都への報告
サイファの門が見えた頃。
すでに異変は街にも届いていた。
冒険者たちが門付近でざわついている。
「さっきの振動、なんだ?」
「森の方だぞ」
俺たちが姿を見せた瞬間、視線が集中する。
アクセル。
俺。
そして見慣れない少女。
ざわり。
「瞬狼……?」
「隣の黒髪はレインだよな?」
「……あの子は誰だ」
ノアは静かに周囲を観察している。
怯えない。
堂々としている。
《注目度、急上昇》
(黙れくさえもん)
⸻
ギルドに入った瞬間。
奥の扉が勢いよく開いた。
「おい!!」
豪快な声。
赤髭を揺らし、ドランが出てくる。
「森で何があった!!」
挨拶もなしだ。
俺は即答する。
「新規迷宮発生。転移系。暴走寸前でした」
「……ほう」
ドランの目が鋭くなる。
「で?」
ノアが一歩前に出た。
「コアを破壊しました」
ギルド内が凍る。
「……は?」
ドランが眉をひそめる。
「迷宮コアを?」
「はい」
淡々と述べる。
ドランは腕を組み、俺を見る。
「説明しろ」
⸻
俺は簡潔に話す。
・薬草採取中に新規迷宮を発見
・内部で転移発生
・スタンピード予兆
・コア破壊で鎮静
ギルド内がざわつく。
「転移だと?」
「スタンピードって……」
「街まで届いてたらやばかったぞ」
ドランがノアを見る。
「お前は何者だ」
ノアはまっすぐ名乗る。
「精霊大陸所属、S級冒険者」
「大精霊魔法使い、ノア」
空気が変わる。
「……精霊大陸だと?」
ドランが低く唸る。
「転移迷宮……」
《情報整合》
《異常発生傾向、上昇》
(静かにしてろ)
⸻
ドランは机を拳で叩いた。
「被害は出てねぇな?」
ノアが淡々と答える。
「未然に止めました」
「なら上出来だ」
だがその声は重い。
「スタンピード未遂は功績として記録する」
ざわめきが起きる。
しかしドランの目は笑っていない。
「だがな……転移迷宮は別だ」
空気が一段、冷える。
「通常発生の迷宮とは訳が違う」
「大陸間転移が絡むなら、街レベルで抱え込める話じゃねぇ」
一拍。
「この話は王都に上げる」
ギルド内が静まり返る。
王都。
その響きは重い。
冒険者たちがどよめく。
「またかよ……」
「兎の神輿が持ってくる事件の規模おかしくない?」
「本体は兎だからな」
思わずつっこむ。
「だから違うって!」
ノアが小さく首を傾げる。
「神輿?」
「気にするな」
⸻
俺は額を押さえる。
「……目立ちたくないんだが」
アクセルが即答する。
「もう無理だ」
ノアが静かに言う。
「大陸間転移が発生した以上、上層部は動く」
くさえもんが追い打ち。
《政治介入確率、上昇》
(お前ほんと余計なこと言うな…)
⸻
そのとき。
ここちゃんが、ぴょん、とカウンターに飛び乗った。
黒い大きな瞳。
上目遣い。
淡いピンクの鼻。
「きゅる」
空気が、ほどける。
「……かわいい」
「落ち着く……」
「癒された……」
ドランが咳払いする。
「……話を戻すぞ!」
だがもう、パニックはない。
緊張はある。
混乱はない。
それだけで十分だった。
⸻
ドランは腕を組む。
「王都から使いが来るだろう」
「数日以内だ」
俺は小さく息を吐く。
「しばらく街にいろ、ってことですか」
「ああ」
ドランの目が鋭い。
「逃げるなよ」
「逃げませんよ」
逃げられるなら逃げたいけど。
⸻
ギルドを出る。
空は穏やかだ。
さっきまでの緊迫が嘘みたいに。
ノアが、静かに周囲を見渡しながら言う。
「……転移迷宮が発生する確率は極めて低い」
「それが、あなたの活動圏で生じた」
俺は眉を上げる。
「偶然だろ」
ノアは首をわずかに振る。
「偶然にしては、規模が大きい」
少しだけ視線を細める。
「あなたは、事件の中心に立つ性質があるようだ」
アクセルが短く笑う。
「こいつはそういう星の下だ」
「やめろ」
即否定。
ノアは静かにレインへ視線を向ける。
敵意はない。
だが確実に、測っている目。
《分析対象、増加》
(くさえもん黙れ)
ノアの視線が、わずかに白い毛玉へ向く。
ここちゃんが、きゅる、と鳴いた。
そして。
ノアは小さく呟く。
「……面白い街だ」
風向きが、少し変わった。
サイファは、静かに次の波を待っている。
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