好みの味
午後。
レインは台所に立っていた。
卓の上にはフィルニル。
塩。
そして並んだ小瓶。
トリュフ塩。
レンネ塩。
ズーラ塩。
ジグレ塩。
午後だけで随分増えた。
だが、まだ終わりではない。
レインはフィルニルを手に取った。
「次はこれだ」
ノアがため息を吐く。
「やめろ」
「何でだ」
「強い」
テラが少し笑った。
「嫌いなのか」
「嫌いではない」
ノアは即答した。
「強いだけだ」
レインはうなずいた。
それは分かる。
好きなやつもいる。
苦手なやつもいる。
だから塩だ。
好きな量だけ使えばいい。
レインはフィルニルを薄く刻んだ。
無属性を流す。
水分だけを抜く。
乾いたフィルニルを細かく砕く。
塩へ混ぜる。
香りが立った。
「完成」
ノアが顔をしかめる。
「強い」
「そうか?」
「強い」
評価は変わらなかった。
レインは首を傾げる。
嫌な匂いではない。
むしろ好きな方だ。
その時。
卓に残った薄切りのフィルニルが目に入った。
「待てよ」
油を見る。
薄切り。
油。
前世の記憶が繋がる。
「あったな」
「何がだ」
「実験だ」
小鍋へ油を入れる。
火にかける。
薄切りのフィルニルを落とした。
じゅわ、と音がした。
香りが広がる。
色が変わる。
きつね色だ。
取り出す。
冷ます。
ひとつ摘まむ。
ぱり。
軽い音がした。
「うまい」
香ばしい。
塩とは違う。
思ったより軽い。
その瞬間。
横から手が伸びた。
アクセルだった。
早い。
「何だ」
「実験だ」
「そうか」
ぱり。
一枚食べる。
さらにもう一枚。
「うまい」
評価が終わった。
「まだ味見だったんだが」
「うまい」
十分らしい。
ノアが卓を見る。
フィルニル塩。
そしてフィルニルチップ。
少し考える。
「違うのか」
「たぶんな」
ノアは一枚摘まんだ。
「……試してみるか」
ぱり。
しばらく咀嚼する。
「どうだ」
「悪くない」
レインは笑った。
「だろ」
テラも一枚摘まむ。
ぱり。
「香ばしいな」
「ああ」
これは思った以上に良かった。
塩とは別だ。
そのままでも食べられる。
砕いて料理へ使っても良さそうだった。
⸻
夜。
卓の中央には串焼き。
その横には小瓶。
トリュフ塩。
レンネ塩。
ズーラ塩。
ジグレ塩。
フィルニル塩。
そしてフィルニルチップ。
「好きなの使え」
レインが言った。
アクセルは迷わなかった。
フィルニル塩。
さらにフィルニルチップ。
遠慮がない。
「かけすぎじゃないか」
「うまい」
答えになっていなかった。
ノアはズーラ塩を選ぶ。
一口。
うなずく。
「これだな」
「気に入ったか」
「ああ」
柚子に近い香り。
予想通りだった。
テラは少し迷う。
トリュフ塩。
ズーラ塩。
両方試す。
「どうだ」
「どちらも良い」
本気で悩んでいるらしい。
レインは全部試した。
レンネ。
ズーラ。
ジグレ。
トリュフ。
フィルニル。
ついでにチップも乗せる。
「節操がないな」
ノアが言う。
「全部気になる」
レインは即答した。
実際どれも悪くない。
気付けば皿は空になっていた。
レインは空いた串を置く。
ノアはズーラ塩。
アクセルはフィルニル塩。
テラはトリュフ塩とズーラ塩。
見事に分かれていた。
スープや煮込みは難しい。
最初から味を決めるしかない。
だが肉なら違う。
焼いたあとで好きなものを使えばいい。
その方が楽だ。
「これでいいな」
ノアが顔を上げる。
「何がだ」
「好きに選べる」
レインは答えた。
「その方がうまいだろ」
ノアは少し考えたあと。
「ああ」
短くうなずいた。
その時。
足元から視線を感じた。
ここちゃんだ。
きゅる。
期待している。
完全に期待している。
レインは苦笑した。
しゃがみ込む。
耳の付け根を撫でた。
「お前のおかげでもあるな」
トリュフを見つけたのはここちゃんだった。
きゅる!
ここちゃんは満足そうに鼻を鳴らした。
テラの肩の上では、むぎがその様子を見ている。
キュ。
こちらもどこか満足そうだった。




