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柑橘とフィルニル


 翌日。


 レインは朝から市場へ来ていた。


 昨日決めたばかりだ。


 なら行く。


 それだけだった。


「市場か」


 テラが周囲を見回す。


「ああ」


「今日は食材だ」


 アクセルもいる。


 ノアもいる。


テラもいる。


 ここちゃんはノアの腕の中。


 むぎはテラの肩だ。


 果物屋を見つけると、レインは迷わず足を向けた。


「柑橘はあるか?」


 店主が笑う。


「あるぞ」


「好きなのか」


「塩にする」


 店主が止まった。


「塩?」


「塩だ」


 レインはうなずく。


 店主は少し考えたあと。


「よく分からんが、面白そうだな」


 そう言って並んだ果物を指差した。


「まずはレンネだ」


 手のひらほどの大きさ。


 緑色。


 丸い。


 見た目は前世のライムに近い。


「これは?」


「酸っぱいぞ」


「はちみつ漬けにする果物だ」


 店主は小刀で少し切り分けた。


 レインは一欠片口へ入れる。


 次の瞬間。


「酸っぱ」


 思わず顔をしかめた。


 ノアが横で食べる。


 平然としている。


「酸味が強いな」


「平気なのか」


「嫌いではない」


 レインは皮を指でこすった。


 香りが立つ。


 前世のレモンに近い。


 これは使えそうだった。


「次はズーラだ」


 オレンジ色の柑橘。


 見た目は完全にオレンジだった。


 だが。


 テラが先に手を止めた。


「良い香りだな」


 レインも匂いを嗅ぐ。


「あれ?」


 柚子に近い。


 実を口へ入れる。


 甘い。


「予想と違うな」


「果物だからな」


 店主が笑った。


 確かにそうだった。


 最後に出されたのはジグレだった。


 大きい。


 赤みがかった皮。


 見た目は酸っぱそうである。


「これは絶対酸っぱいだろ」


「そう思うだろ?」


 店主が笑う。


 嫌な予感がした。


 レインは一房食べる。


 止まった。


「甘い」


「だろう?」


 完全に騙された。


 見た目と味が一致していない。


 みかんに近い。


 不思議な果物だった。


 その時。


 ノアの腕の中から視線を感じた。


 ここちゃんだ。


 きゅる。


 完全に見ている。


 テラの肩では、むぎも身を乗り出していた。


 キュ。


 二匹とも隠す気がない。


「欲しいのか」


 きゅる。


 キュ。


 レインは少し考えた。


 前世の記憶を探る。


 みかんは。


 確か。


 ほんの少しなら食べられたはずだ。


「少しだけだからな」


 一房をさらに小さく分ける。


 まずここちゃんへ。


 ノアが少し身をかがめた。


 ぱく。


 もぐもぐ。


 耳がぴくりと動く。


 きゅる。


 気に入ったらしい。


 次はむぎだ。


 テラの肩から差し出された手へ乗り移る。


 小さな欠片を受け取る。


 キュ。


 ちまちまと食べる。


 問題なさそうだった。


「よし」


 レインはうなずいた。


 店主が笑う。


「家族か?」


「そんなところだ」


 否定はしなかった。


 結局。


 レンネ。


 ズーラ。


 ジグレ。


 それぞれ二つずつ買った。


 今回は実より皮が目当てだった。



 拠点へ戻る。


 まずレンネを切る。


 肉を焼く。


 絞る。


 じゅっ、と音がした。


 香りが広がる。


 レインは一口食べた。


「ああ」


 思わずうなずく。


 予想通りだった。


 酸味と香りで肉の印象が変わる。


「どうだ」


 ノアが聞く。


「当たりだな」


 アクセルも食べる。


「悪くない」


 評価は上々だった。


 レインは皮を薄く剥く。


 無属性を流す。


 水分だけを抜く。


 ぱり、と乾いた。


 細かく砕く。


 塩へ混ぜる。


 香る。


「いいな」


 予想以上だった。


 続いてズーラ。


 こちらも皮を乾燥させる。


 砕く。


 塩へ混ぜる。


 柚子に近い香りが立った。


 テラが小瓶へ顔を近づける。


「これは好きだな」


 レインも同意した。


 良い香りだった。


 最後にジグレ。


 実はそのまま食べることにした。


 甘い。


 普通にうまい。


 ここちゃんも気に入ったらしい。


 ただし皮は別だ。


 乾燥。


 粉砕。


 塩。


 完成。


 卓の上に小瓶が並ぶ。


 トリュフ塩。


 レンネ塩。


 ズーラ塩。


 ジグレ塩。


 レインは満足そうだった。


「増えたな」


 テラが言う。


「ああ」


 レインはうなずく。


 そして。


 棚に残るフィルニルを見る。


「あ」


 ノアが嫌な予感を察した顔をした。


「まだあるのか」


「あるな」


 レインはフィルニルを手に取った。


「次はこれだ」


 ノアが小さくため息を吐く。


「やめろ」


「何でだ」


「強い」


 テラが少し笑った。


「嫌いなのか」


「嫌いではない」


 ノアは即答した。


「強いだけだ」


 レインはフィルニルを見る。


 強いのは分かる。


 だが。


 好きなやつもいる。


 塩なら量も調整できる。


 むしろ向いている気がした。


「やるか」


 ノアが目を閉じた。


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