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正体とお手柄


 肉が焼ける音がする。


 じゅう、と油が落ちた。


 レインは卓の上に置いた黒い物体を見る。


 茸。


 食用可。


 希少。


 そこまでは分かった。


 だが、それ以上が分からない。


「本当に食べるのか」


 テラが聞く。


「食用可らしいからな」


 レインは答えた。


「ただ、生は嫌だ」


「同感だ」


 テラがうなずく。


 アクセルはもう肉を見ている。


 食べる気満々だった。


 レインは小刀を取る。


 薄く削る。


 黒い欠片がぱらりと落ちた。


 思ったより柔らかい。


 そのまま焼き上がる直前の肉へ乗せる。


「それだけか」


 アクセルが言う。


「それだけだ」


「雑だな」


 ノアが言った。


「初めて見る食材だぞ」


「だからだ」


 レインは肉をひっくり返した。


「まずは死なないことを確認する」


「間違ってはいない」


 テラが小さく笑う。


 しばらくして。


 ふわり、と香りが広がった。


 レインの手が止まる。


「ん?」


 さっきより強い。


 温められたことで出てきたらしい。


 どこかで嗅いだことがある。


 覚えている。


 だが思い出せない。


 肉を皿へ移す。


 四人分。


 ここちゃんは足元。


 むぎは胸ポケットから顔を出していた。


 レインは一口食べる。


 噛む。


 香りが抜ける。


 その瞬間だった。


「あ」


 三人がこちらを見る。


 レインは肉を見た。


 もう一口食べる。


 間違いない。


「思い出した」


「何だ」


 ノアが聞く。


「トリュフだ」


 前世の記憶。


 高い店。


 特別な料理。


 たまに乗っていた黒い茸。


 食べたことはある。


 だが生えている姿など知らなかった。


「知っているのか」


 テラが聞く。


「ああ」


「珍しい茸だ」


 それ以上説明しても伝わらない気がした。


 アクセルは気にせず肉を食べている。


 一口。


 もう一口。


「悪くない」


 評価は高いらしい。


 ノアも食べる。


 少し考えたあと言った。


「これは好きな香りだ」


「ああ」


 テラもうなずく。


「良い香りだな」


 レインも同意した。


 香草とも違う。


 フィルニルとも違う。


 肉の味そのものは大きく変わっていない。


 だが印象は変わる。


 香りだけで、だ。


 レインは前世を思い出した。


 香草や香辛料ばかり考えていた。


 だが、日本には他にも色々あった。


 抹茶塩。


 柑橘塩。


 焼いた肉や天ぷらに少しかけるだけで風味が変わる。


 香りは強すぎない。


 だが確かに違う。


「そういえば」


 レインは黒い茸を見る。


 トリュフ塩。


 そんなものもあったな。


 レインは残っていた茸を薄く削った。


 そのままでは傷みやすい。


 少しだけ乾燥させる。


 保存も利く。


 香りも残る。


 無属性を流す。


 水分だけが抜けていく。


 乾燥した茸を細かく砕く。


 塩へ混ぜる。


 さらに混ぜる。


 小瓶へ移す。


「何をしている」


 ノアが聞いた。


「実験だ」


 レインは指先へ少し付ける。


 舐めた。


 塩味。


 その後から、ふわりと香りが広がる。


「なるほど」


 もう一度舐める。


 悪くない。


 肉にも合う。


 好きな量を使える。


 香草が苦手でも関係ない。


 フィルニルが苦手でも関係ない。


「これはありだな」


 ノアも少しだけ試した。


「好きだ」


 即答だった。


 アクセルも試す。


「悪くない」


 評価は変わらない。


 テラも少し舐める。


「良いな」


 反応は上々だった。


 レインは小瓶を見る。


 香草とは違う香り。


 フィルニルとも違う香り。


 探せば他にもあるかもしれない。


 柑橘。


 果物。


 前世にあった色々な調味料。


「今度、探してみるか」


 そう呟く。


 足元から視線を感じた。


 ここちゃんだ。


 きゅる。


 得意げである。


 レインはしゃがみ込む。


 耳の付け根を撫でた。


「お手柄だぞ」


 ここちゃんの耳がぴくりと動く。


 きゅる!


 今度はさらに得意げだった。




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