謎の物体
黒い物体を前に、レインは腕を組んだ。
どう見ても怪しい。
丸い。
黒い。
ごつごつしている。
しかも地面の中から出てきた。
ここちゃんはその隣で胸を張っていた。
きゅる。
前足を黒い物体へ乗せる。
完全に自慢だ。
「やめなさい」
レインが言う。
ここちゃんが顔を上げる。
ぶ。
明らかに不満だった。
「ぶ、じゃない」
「どう見ても駄目なやつだろ」
きゅる。
納得していない。
ノアが物体を見る。
アクセルも見る。
テラも見る。
誰も何なのか分からなかった。
レインは黒い物体へ視線を向ける。
「鑑定」
その瞬間。
《解析》
《対象:茸類》
《食用可》
《希少》
レインが止まる。
「茸?」
もう一度見る。
黒い。
丸い。
ごつごつしている。
「茸……?」
どう見ても茸には見えなかった。
ノアが言う。
「何だ」
「茸らしい」
アクセルが物体を見る。
「見えないな」
「俺もそう思う」
テラも小さくうなずいた。
「ああ」
全員一致だった。
ここちゃんだけが違う。
きゅる。
満足そうである。
「食用可らしい」
「食べるのか」
アクセルが聞く。
「食べない」
レインは即答した。
テラがわずかに目を細める。
「食用可だぞ」
「分かってる」
「だが見た目が駄目だ」
ぶ。
ここちゃんが再び抗議した。
「とりあえず持って帰る」
レインは黒い物体を拾い上げた。
思ったより軽い。
土を払う。
やはり茸には見えなかった。
きゅる。
ここちゃんは満足そうだった。
⸻
拠点へ戻る。
卓の上へ黒い物体を置いた。
改めて見る。
やはりよく分からない。
「何に見える」
レインが聞く。
アクセルが即答する。
「石」
「俺もそう思う」
ノアが首を振った。
「石は食べられない」
「それはそうだ」
テラは少し考える。
「木の瘤にも見える」
「余計分からん」
レインは桶へ水を張った。
黒い物体を洗う。
土が落ちる。
それでも見た目は大して変わらない。
レインは小刀を取った。
「切るか」
刃を入れる。
思ったより柔らかかった。
断面が現れる。
その瞬間だった。
レインの手が止まる。
「ん?」
ほんの少し。
香りがした。
強くはない。
だが覚えがある。
どこかで嗅いだことがある。
レインは断面へ顔を近づけた。
もう一度匂う。
「何だ?」
思い出せない。
知っている。
だが思い出せない。
そんな香りだった。
ノアが聞く。
「どうした」
「いや」
レインは首を傾げた。
「何か知ってる気がする」
テラも断面を見る。
「茸なのか」
「らしい」
「見えないな」
「ああ」
再び全員一致だった。
レインはもう一度断面を見る。
前世で食べたことがある気がする。
だが名前が出てこない。
もどかしい。
少し考えて。
レインは立ち上がった。
「肉焼くか」
ノアが顔を上げる。
「結論が雑だな」
「食べれば分かるかもしれない」
それは割と本気だった。
アクセルはもう席へ着いている。
早い。
テラも苦笑した。
きゅる。
ここちゃんは満足そうに鼻を鳴らした。
自分が見つけたものだからだろう。
キュ。
胸ポケットからむぎも顔を出した。
どうやら興味はあるらしい。
レインは黒い物体を見る。
茸。
希少。
食用可。
それは分かった。
だが。
「本当に茸か?」
その疑問だけは最後まで消えなかった。




