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約束の模擬戦


 翌日。


 白兎の庭はサイファ近くの森へ来ていた。


 理由は単純だ。


 朝。


 アクセルが言った。


「行くか」


 テラがうなずく。


「ああ」


 それだけで話はまとまった。


 レインは少し考えてから思い出す。


「……ああ、模擬戦か」


 精霊大陸で交わした約束。


 次は中央大陸で。


 ただ、それだけの話だった。


「忘れていたのか」


 テラが言う。


「いや、忘れてはない」


「思い出すのが遅かっただけだ」


 アクセルが剣を肩に担ぐ。


「同じだ」


「違う」


 レインは即座に否定した。


 ノアは横で小さく息を吐く。


「どうでもいい」


 確かにそうだった。


 模擬戦をする二人にとっては、たぶん本当にどうでもいい。


 森の少し開けた場所まで来る。


 アクセルが立つ。


 向かいにテラ。


 レインはむぎを胸ポケットへ移した。


 キュ。


 不満はないらしい。


 ここちゃんは近くで草をはんでいる。


 きゅる。


 平和だ。


「始めるぞ」


 アクセルが言う。


「ああ」


 テラが弓を構えた。


 次の瞬間。


 矢が消える。


「は?」


 思わず声が出た。


 矢は飛んでいた。


 ただ速すぎて見えなかっただけだ。


 アクセルが半歩動く。


 直後。


 後ろの木が弾けた。


 乾いた音と共に木片が飛び散る。


「おい」


 レインが言う。


「森を壊すな」


「当たっていない」


 アクセルが答える。


「そういう問題か?」


 テラは次の矢をつがえていた。


 迷いがない。


 アクセルも同じだ。


 矢が飛ぶ。


 避ける。


 踏み込む。


 離れる。


 その繰り返し。


 レインには十分おかしかった。


 ノアは平然と見ている。


「慣れたのか」


「今さらだ」


 それもそうだった。


 しばらくして。


 テラが弓を下ろした。


 アクセルも剣を肩に担ぐ。


 終わりらしい。


「満足か」


 アクセルが聞く。


「ああ」


 テラが答える。


「悪くなかった」


「そうか」


 それで終わりだった。


 勝敗もない。


 握手もない。


 だが二人とも納得している。


 レインにはよく分からなかった。


「戦闘狂だな」


「違う」


 アクセルが言う。


「確認だ」


「十分戦闘狂だろ」


 ノアが小さく笑った。


 珍しい。


 テラもわずかに口元を緩める。


 空気は悪くなかった。


 少し歩いたところで、テラが木々へ視線を向けた。


「少し見て回りたい」


 レインが首を傾げる。


「森か?」


「ああ」


 テラは近くの木へ手を添えた。


「精霊大陸とは違う」


「植生も違うな」


 ノアが言う。


 そこからは二人の時間だった。


 木。


 草。


 薬草。


 レインにはよく分からない話が続く。


 アクセルは最初から聞いていない。


 レインも途中で諦めた。


「なるほど」


「分かっていないな」


 ノアに見抜かれる。


「分かる訳ないだろ」


 薬草を見ただけで種類が分かる方がおかしい。


 風が木々を揺らす。


 鳥の声が遠くで聞こえた。


 平和だった。


 だから気付くのが遅れた。


 きゅる。


 少し離れた場所から声がする。


 レインが振り返る。


「ん?」


 ここちゃんがいた。


 前足で地面を掘っている。


 やたら真剣だ。


 ホリ。


 ホリホリ。


 ホリホリホリ。


「何やってるんだ?」


 近づく。


 ここちゃんは止まらない。


 むしろ勢いが増した。


 土が飛ぶ。


 きゅる。


 楽しそうですらある。


 ノア達も近寄ってきた。


 やがて。


 土の中から黒い何かが見えた。


 丸い。


 黒い。


 妙にごつごつしている。


 ここちゃんが最後にひと掘りする。


 ぽろり。


 それは完全に姿を現した。


 レインは黙った。


 一度見た。


 もう一度見た。


 そして言う。


「……待て」


 一拍。


「それは待て」


 ここちゃんは満足そうに鼻を鳴らした。


 きゅる。



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