揺れない寝台
夜。
拠点は静かだった。
風が窓を揺らす。
草の擦れる音だけが、外にある。
⸻
テラは部屋の中を見ていた。
簡素だ。
だが足りないものはない。
寝台が一つ。
壁際に収まっている。
一歩、近づく。
手で押す。
沈む。
戻る。
「……」
もう一度押す。
同じだ。
沈む。
支える。
揺れない。
テラはわずかに眉を寄せた。
「これは何だ」
小さく呟く。
後ろから声。
「寝台だ」
アクセルだ。
「そういう意味ではない」
アクセルは気にしない。
腕を組んだまま言う。
「沈む」
「見れば分かる」
「揺れない」
テラはもう一度押す。
横に力をかける。
動かない。
沈みはある。
だが、逃げない。
「……妙だな」
アクセルが顎をあげる。
「ついてこい」
アクセルが歩き出す。
テラも続く。
自分の寝台を軽く叩く。
「これもだ」
テラが視線を向ける。
「同じか」
「ああ」
一拍。
テラが言う。
「……やりすぎだろう」
アクセルは短く答える。
「必要だ」
それだけ。
テラは自室に戻り、ゆっくりと腰を下ろす。
沈む。
支えられる。
そのまま横になる。
目を閉じる。
数秒。
さらに数秒。
「……」
ゆっくりと目を開ける。
天井を見る。
「……悪くない」
アクセルが小さくうなずく。
「だろ」
それで終わりだ。
外では風が流れている。
拠点は静かだ。
軋む音はない。
揺れもない。
テラはもう一度だけ寝返りを打つ。
沈む。
戻る。
止まる。
⸻
小さく息を吐く。
「……よく眠れそうだ」
一拍。
アクセルは何も言わない。
部屋を出る。
扉が静かに閉まる。
テラは天井を見上げる。
口元がわずかに緩んだ。
夜は、そのまま深くなる。




