今さらの話
夕方。
風は穏やかだ。
食卓。
椅子が並ぶ。
ひとつ、増えている。
もうひとつ、空いている。
テラが座る。
新しい席だ。
視線が一瞬だけ卓をなぞる。
だが何も言わない。
食事が始まる。
皿が増えただけだ。
やることは変わらない。
アクセルが口を開く。
「……それで」
短い。
テラが手を止める。
一拍。
「副団長は辞した」
それだけ。
レインがうなずく。
「……そうか」
ノアが言う。
「選んだのか」
「ああ」
アクセルが言う。
「遅い」
テラがわずかに笑う。
「否定はしない」
それで終わる。
理由も、経緯も。
誰も聞かない。
少しの間。
静かに食べる。
レインがふと口を開く。
「……で、ついでだ」
腰の袋を軽く叩く。
「これ」
「中、ほぼ無限」
沈黙。
テラが言う。
「……やはりか」
ノアが言う。
「ミスリルリザード」
アクセルが言う。
「肉の量」
テラが続ける。
「土産もだな」
レインが眉をひそめる。
「気づいてたなら言えよ」
ノアが言う。
「必要なかった」
アクセルが言う。
「困ってない」
テラが小さく息を吐く。
「説明が面倒そうだった」
「ひどいな」
少しの間。
ノアが静かに言う。
「無属性」
アクセルが続く。
「回復」
テラが小さくうなずく。
「……あの白いの」
ここちゃんがきゅる、と鳴く。
レインが肩をすくめる。
「他にもあるぞ」
ノアが言う。
「知ってる」
アクセルが言う。
「もういい」
テラが言う。
「驚きすぎた」
全員が少しだけ黙る。
それから。
ノアが言う。
「多い」
アクセルがうなずく。
「多いな」
テラが小さく笑う。
「今さらだ」
レインは少しだけ力を抜く。
「……今さらか」
風が抜ける。
庭の匂い。
生活の匂い。
何も変わらない。
それでいい。




