油と麺
昼。
サイファの通りはいつも通りだ。
荷車の音。
呼び込みの声。
炭で焼かれた香ばしい串の匂い。
レインは袋を肩にかけたまま歩く。
「食材、補充しとくか」
アクセルがうなずく。
「ああ」
ノアも続く。
「減っている」
拠点での生活が増えた分、消費も早い。
当然だ。
⸻
肉屋。
塊をいくつか見て、ひとつ選ぶ。
脂の入り。
色。
重さ。
「これでいい」
店主が笑う。
「目が慣れてきたな」
「まぁな」
袋に入る。
ずしりと重い。
⸻
通りを進む。
見慣れない声が飛ぶ。
「珍しい品だぞー! 南から来たばっかりだ!」
行商人だ。
荷を広げている。
布の上に並ぶのは、見慣れないものばかり。
乾燥した果実。
見たことのない殻。
そして――
細長い束。
既視感に思わず足が止まる。
「……これはなんだ?」
行商人がにやりと笑う。
「お!見る目があるな!これは乾燥麺だ」
「麺?」
「湯で戻して食う。腹にたまるぞ!南じゃよく食われてる」
レインは一本手に取る。
固い。
細い。
(……パスタだろこれ)
《名称:乾燥穀麺》
(ああ、パスタな)
こちらに来てからパンばかりだ。
久しぶりのパスタ。
悪くない。
「これ、買う」
「まとめてか?」
「まとめてだ」
「よし!包むから待ってろ!」
アクセルが横から言う。
「食えるのか」
「食える」
断言する。
行商人が満足そうに頷く。
「いい買い物だ」
⸻
次は油屋。
樽が並ぶ。
透明な油。
少し色のある油。
レインは黄色味がかった油が入った瓶を手に取る。
匂いを嗅ぐ。
青い。
少し苦い。
(……オリーブだな)
《植物油》
(雑だな)
「これももらう」
店主がうなずく。
「いいとこに目つけたな。これは火に強いぞ」
「だろうな」
レインは軽く笑う。
⸻
袋が増える。
重さが肩に乗る。
だが足は止まらない。
レインは歩きながら考える。
「フィルニル……」
(肉ばっかだと飽きるよな)
焼く。
煮る。
燻す。
一通りやった。
(軽いやつが欲しい)
頭の中で組み上がる。
油。
フィルニル。
麺。
そして。
(……辛味の実)
あの時の味。
最後に残る、あの刺激。
(入れるか)
口の端が少し上がる。
「決まったな」
アクセルが横を見る。
「何がだ」
「飯だ」
それだけ。
⸻
ふと、別の考えが浮かぶ。
(丸ごと揚げてもいいな)
油に沈める。
じっくり火を入れる。
ほくほくになる。
想像できる。
視線を感じて、ふと横を見る。
ノア。
無言でこちらを見ている。
フィルニルは少量なら、と言っていた。
丸ごと揚げたら匂いもかなり強いので、嫌がるに違いない。
(……やめとくか)
レインは小さく息を吐く。
「今回は軽くいく」
ノアが短く言う。
「助かる」
正直だ。
アクセルは言う。
「俺は問題ない」
「知ってる」
⸻
拠点へ戻る。
台所。
袋を下ろす。
乾燥麺を出す。
フィルニルを出す。
油を並べる。
そして。
小さな袋。
辛味の実。
卓の端に置く。
それだけで、もう決まっている。
鍋に水を張る。
火にかける。
沸くまでの間。
フィルニルを刻む。
包丁の刃が滑る。
香りが立つ。
アクセルが言う。
「また強いな」
「すぐ変わる」
フライパンに油。
火。
フィルニルを入れる。
じゅ、と音。
香りが広がる。
さっきより柔らかい。
少し甘い。
ノアが言う。
「さっきよりいい」
「火だな」
辛味の実を砕く。
ほんの少し。
油に落とす。
香りが変わる。
鋭さが混ざる。
レインは麺を鍋に入れる。
少し硬い。
だが、すぐにしなる。
時間は短い。
上げる。
水を切る。
そのままフライパンへ。
油と絡める。
塩を振る。
それだけ。
⸻
皿に盛る。
白い麺に、薄く色が乗る。
フィルニルと、赤い粒。
湯気が上がる。
アクセルがすぐに手を伸ばす。
一口。
噛む。
飲み込む。
止まる。
「……軽いな」
もう一口。
少し遅れて言う。
「……あと、くるな」
レインが笑う。
「だろ」
ノアも少しだけ口にする。
一瞬だけ止まる。
それから飲み込む。
「……残る」
「辛味な」
「嫌ではない」
許容。
むぎは水皿から水を飲んでいる。
キュ。
ここちゃんは少し離れて草をかじっている。
きゅる。
距離はあるが、逃げてはいない。
レインはフォークを回す。
油と麺が絡む。
そこに、遅れてくる刺激。
シンプルだ。
だが。
「うん、悪くない」
小さく言う。
拠点の中に、またひとつ。
繋がった味が増えた。




