行くぞ
朝。
庭に光が落ちる。
草が、軽く揺れる。
ここちゃんが走る。
きゅる。
むぎが桶の縁に乗る。
キュ。
静かだ。
拠点の朝。
扉が開く。
アクセルが立っている。
短く言う。
「行くぞ」
それだけ。
レインは顔を上げる。
「どこにだ」
アクセルは答えない。
そのまま外へ出る。
ノアが立ち上がる。
「目的はありそうだ」
「あるだろうな」
レインも立つ。
ここちゃんを抱き上げる。
むぎはポケットへ。
外へ出る。
⸻
通り。
朝の空気。
店が開き始めている。
アクセルは迷わない。
どんどん進んでいく。
足が止まる。
家具屋だ。
扉を開ける。
木の匂い。
店主が顔を上げる。
「おや、また来たな」
アクセルが言う。
「椅子」
それだけ。
店主が笑う。
「追加か?」
「ああ」
その一言でアクセルの目的を理解した。
レインが横から言う。
「同じやつあるか」
店主が奥を指す。
「あるぞ。揃えたのがな」
アクセルが一脚持ち上げる。
重さを確かめる。
軽く押す。
ぎし、と鳴る。
うなずく。
「これだ」
店主が聞く。
「何脚だい?」
アクセルは迷わない。
「一つ」
一拍。
レインは何も言わない。
ノアもすでに理解し、椅子を確認する。
「同じだな」
アクセルが続ける。
「寝台も」
店主が眉を上げる。
「壊れたのかい?」
「違う」
短い。
「追加だ」
店主は肩をすくめる。
「あるにはあるが、運ぶか?」
「ああ」
「配送だね。明日には届けるよ」
話は早い。
配送料も含めて支払いを済ませる。
店主が言う。
「増えるんだな」
アクセルは答えない。
椅子を持つ。
それで十分だ。
⸻
家具屋を出て、通りを歩く。
次の場所へ。
鍛冶屋。
炉の熱。
鉄の匂い。
親父が顔を上げる。
「……また来たな」
アクセルが言う。
「ばね」
親父が笑う。
「やっぱりか」
レインが苦笑する。
「察しがいいな」
「三日かかる」
アクセルが頷く。
「いい」
即答。
ノアが言う。
「前回と同等以上を」
親父が鼻を鳴らす。
「分かってる」
弟子が横で笑う。
「今度は誰用ですか?」
アクセルが短く言う。
「来る」
それだけ。
親父が一瞬だけ目を細める。
それ以上は聞かない。
「数は増やす。前より詰める」
「頼む」
金を置く。
それで終わりだ。
⸻
最後に、大工の工房。
木の匂い。
削り屑。
大工が手を止める。
「今度は何だ」
レインが言う。
「寝台の枠だ」
大工が笑う。
「また囲うのか」
「揺れるからな」
ノアが補足する。
「横方向の安定が必要」
大工はうなずく。
「寸法は?」
アクセルが言う。
「同じでいい」
一拍。
レインが少しだけ笑って補足する。
「一人用の寝台の寸法で頼む」
アクセルは頷くだけ。
だが視線は逸らさない。
大工が頷く。
「わかった。明日には形にする」
「頼む」
⸻
椅子を抱えて拠点へ戻る。
庭。
風が抜ける。
草が揺れる。
ここちゃんが跳ねる。
きゅる。
むぎが桶を回す。
キュ。
椅子をひとつ、置く。
いつもの並びに追加で。
席がひとつ、増えた。
レインは黙ってそれを見る。
アクセルも何も言わない。
ただ、置いた。
それだけだが、アクセルはどこか満足そうだ。
風が抜ける。
拠点は、静かだった。
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