テラへの手紙と日常
朝。
サイファの空気はいつも通りだった。
石畳の音。
人の声。
遠くで鍛冶の音が響く。
レインは軽く伸びをする。
「……行くか」
アクセルが頷く。
「ああ」
ノアも続いて頷く。
⸻
ギルドの扉を押す。
中は朝の空気だ。
依頼を確認する冒険者。
受付の前に並ぶ人の列。
いつも通り。
ミアが顔を上げる。
「あ、おはようございます!」
少し明るい声。
レインは軽く手を上げる。
「おはよう」
⸻
ミアが書類を差し出す。
「報酬です」
袋が机に置かれる。
重さがある。
アクセルが中を覗く。
「悪くないな」
ミアが少し笑う。
「今回の件、評価高いですよ」
レインは肩をすくめる。
「そうか」
それ以上は聞かない。
⸻
アクセルが一歩前に出る。
「依頼だ」
ミアが少し驚く。
「もうですか?」
アクセルは首を振る。
「手紙」
短い。
ミアが頷く。
紙を出す。
「どちらへ?」
アクセルは答える。
「精霊大陸」
ミアが一瞬だけ目を瞬かせる。
「時間、かかりますよ?」
「ああ」
気にしていない。
ノアが言う。
「時間はかかるが届く」
それだけだ。
レインは頷く。
「そうだな」
⸻
アクセルがペンを持つ。
少しだけ止まる。
それから書く。
無駄はない。
書き終えて、紙を渡す。
ミアが受け取る。
丁寧に確認する。
「お預かりします」
アクセルが頷く。
「ああ」
⸻
ミアが顔を上げる。
「次の依頼はどうします?」
レインが軽く答える。
「しばらく休もうと思う」
ミアが少しだけ笑う。
「たまにはいいですね」
アクセルが言う。
「だな」
ノアが短く言う。
「問題ない」
ミアがうんうんと頷く。
「またお待ちしてますね」
ギルドを出る。
外の空気。
いつもの匂い。
レインは小さく息を吐く。
「さて、戻るか」
⸻
拠点の庭。
草が揺れている。
風が抜ける。
ここちゃんが走る。
きゅる。
軽い足音。
むぎが胸ポケットから顔を出す。
キュ。
レインがしゃがむ。
手に乗せてむぎを降ろしてやる。
ちょこちょこと庭に走り出す。
走っていたここちゃんが寄ってきてレインを見上げる。
軽く撫でると気持ちよさそうに目を細めている。
⸻
アクセルがむぎを見る。
腕を組む。
「元気だな」
レインは小さく笑う。
「ああ」
ノアが言う。
「よく走る」
⸻
風が抜ける。
草が揺れる。
音は少ない。
だが、静かすぎない。
レインはそのまま座る。
背を壁に預ける。
目を閉じる。
ここちゃんの温もり。
むぎの小さな動き。
全部、そこにある。
⸻
「……いいな」
小さく言う。
誰に向けたわけでもない。
アクセルが言う。
「ああ」
ノアも頷く。
⸻
白兎の庭は、そこにある。
変わらずに。




