拠点への帰還
扉を開ける。
木の軋む音。
中の空気がそのまま流れてくる。
乾いた木の匂い。
炭の残り香。
変わっていない。
レインはそのまま中に入る。
靴音が鳴る。
奥の卓が見える。
椅子が並んでいる。
少し埃っぽいが、いつものままだ。
⸻
アクセルが後ろから入る。
肩を回す。
「……やっぱここだな」
レインは小さく笑う。
「ああ」
ノアも続く。
部屋を一度だけ見て、短く言う。
「問題ない」
それでいい。
⸻
荷を下ろす。
空気の入れ替えのために窓を開ける。
台所に向かい、手を洗う。
食材を取り出して並べる。
慣れた動作で棚から鍋を取り出し水を汲む。
火を入れる。
そこからは包丁のトントンという音が響く。
⸻
骨付き肉を香草をまぶして焼いたもの。
野菜のスープとパン。
卓に皿を並べる。
椅子を引く。
いつもの並び。
レインは座る。
アクセルが腰を下ろす。
ノアも続く。
そこで、一拍。
ほんのわずか。
レインの視線が、横に流れる。
一つ分、空いている。
それだけだ。
何もない。
ただ、そこに椅子がある。
レインは視線を戻す。
何も言わない。
⸻
食事を始める。
音が混ざる。
皿の音。
ここちゃんが野菜をシャクシャク食べる音。
むぎが種をカリカリかじる音。
小さく、落ち着いた音だ。
アクセルが空いた席に視線を向ける。
「……減ったな」
レインは短く返す。
「ああ」
ノアは手を止めない。
「一人」
それだけ言う。
⸻
少しして。
ここちゃんが卓の下から顔を出す。
きゅる。
レインの足元を一周する。
むぎが胸ポケットの中に戻る。
キュ。
いつもと同じだ。
一つだけ違う。
けど、それで十分だった。
⸻
食事が終わる。
片付ける。
水を流す。
火を落とす。
動きは変わらない。
いつも通りだ。
⸻
夜。
外の音が少し遠い。
レインは椅子にもたれる。
天井を見る。
アクセルは卓の脚に背を預けている。
腕を組んだまま。
ノアは壁に寄る。
⸻
アクセルが言う。
「……あいつ」
短い。
レインは目を閉じたまま返す。
「ああ」
それで通じる。
アクセルが続ける。
「何してんだろうな」
レインは少しだけ息を吐く。
「分からない」
ノアが言う。
「役目」
短い。
アクセルが鼻を鳴らす。
「厄介だな」
レインは目を開ける。
そのまま天井を見る。
「そうだな」
⸻
少しの間。
静けさが落ちる。
レインが言う。
「……きっと戻る」
誰に向けたわけでもない。
だが、はっきりしている。
アクセルが小さく笑う。
「遅いって言うだろう」
レインも少しだけ口元を緩める。
「ああ」
ノアが言う。
「席」
短い。
レインは頷く。
「ああ、空けとく」
それだけだった。
⸻
また、静けさが落ちる。
今度は空気が少し軽かった。
唐突にアクセルが立ち上がる。
肩を回す。
一度、二人を見る。
それから言う。
「呼ぶか」
レインが視線を向ける。
「誰を」
アクセルは短く答える。
「テラだ」
ノアがわずかに目を細める。
「約束」
アクセルが頷く。
「ああ」
レインは少しだけ考える。
それから頷く。
「そうだな」
それで決まる。
⸻
卓の上。
椅子はそのままだ。
一つ、空いたまま。
だが。
それでいい。
白兎の庭は、ここにある。




