王国へ帰還
国境砦の門が開く。
重い音。
石が擦れる。
馬車がゆっくりと進む。
帝国側の空気が、背中から離れていく。
レインは振り返る。
石壁。
整えられた道。
揃いすぎた街並み。
遠くに、帝都の影が見える。
ほんのわずか。
それだけで、十分だった。
アクセルが前を見たまま言う。
「終わったな」
レインは視線を戻す。
「ああ」
短く返す。
ノアが言う。
「一応」
レインは少しだけ息を吐く。
「一応、な」
それ以上は続けない。
⸻
馬車は山へ入る。
道が狭くなる。
岩壁が近づく。
北方山脈。
同じ道のはずなのに、行きとは違って見えた。
アクセルが言う。
「長かったな」
レインは少しだけ考える。
迷宮。
帝都。
地下機構。
ルカ。
カイン。
浮かんでは消える。
「ああ」
それだけ言う。
⸻
トンネルを抜ける。
空気が変わる。
湿り気。
風の匂い。
王国側の空気だ。
ノアが短く言う。
「戻った」
レインは頷く。
「ああ」
ここちゃんが腕の中で耳を動かす。
きゅる。
むぎが胸ポケットの中で小さく鳴く。
キュ。
レインは軽く押さえる。
そのまま前を見る。
⸻
砦の中へ入る。
兵たちの視線が一度だけ向く。
すぐに戻る。
いつも通りだ。
変わらない。
アクセルが肩を回す。
「こっちは楽だな」
レインは小さく笑う。
「分かる」
ノアは何も言わない。
ただ、前を見ている。
⸻
レインは一度だけ振り返る。
山の向こう。
帝国がある。
静かだった。
整っていた。
それでいて。
どこか、歪んでいた。
目を細める。
ほんの一瞬。
それから視線を外す。
「行くか」
アクセルが頷く。
「ああ」
ノアも短く言う。
「問題ない」
⸻
馬車が動き出す。
王国へ向かう。
サイファへ戻る道だ。
帝国での出来事は、終わった。
だが。
それで終わりではない。
そのことだけが、静かに残っていた。




