解析結果
研究院の一室。
前に通された部屋とは違う。
広くはない。
だが、紙の量が違った。
机の上に資料が積まれている。
数値。
図。
記録。
どれも整理されている。
整えられている。
ルカがその前に立っていた。
顔を上げる。
「来ましたか」
それだけ言う。
レインたちは部屋へ入る。
扉が閉まる。
静けさが落ちる。
⸻
アクセルが机を見る。
「増えてるな」
「解析の結果です」
ルカは短く返す。
一枚、資料を手に取る。
「結論から言います」
紙を机に置く。
「試験機は正常に作動していました」
アクセルが眉を寄せる。
「またそれか」
「はい」
ルカは否定しない。
「機構としては問題ありません」
一拍。
「補正が強すぎた」
ノアが言う。
「過剰補正」
「そうです」
ルカは頷く。
指で図をなぞる。
円。
流れ。
集中点。
「試験機は、迷宮内の魔力偏差を検知し」
「それを均すように動作します」
レインは黙って聞いている。
ルカは続ける。
「今回、ある時点で」
わずかに間を置く。
「大きな魔力乱れを検知しています」
アクセルが腕を組む。
「どれくらいだ」
「通常範囲をはるかに超えています」
それだけ言う。
「試験機はそれを補正しようとしました」
「結果、負荷が集中」
「循環が一点へ集束」
ノアが短く言う。
「偏る」
「はい」
ルカは頷く。
「暴走状態に移行しています」
アクセルが小さく息を吐く。
「やりすぎたか」
「その通りです」
⸻
ルカは別の資料を抜き出した。
机に置く。
波形が描かれている。
不規則な線。
レインはそれを見る。
どこか、違和感がある。
「もう一点」
ルカが言う。
アクセルが顔を上げる。
「まだあるのか」
「試験機は接続時に、内部記録の照合を行います」
ノアが言う。
「ログ」
「はい」
ルカは頷く。
指で波形の一部をなぞる。
「その際、異常な波形を検出しています」
アクセルが眉を寄せる。
「異常ってのは」
「本来存在しない変動です」
即答だった。
ルカは続ける。
「機構はこれを」
一拍。
「現在の魔力乱れと誤認しました」
部屋が少し静かになる。
ノアが図を見る。
「誤検知」
「はい」
ルカは頷く。
「結果として」
「存在しない規模の乱れに対して補正を開始」
アクセルが舌打ちする。
「過剰反応か」
「そうです」
ルカは否定しない。
「都市循環を引き込み」
「出力を上げ続けた」
レインは地下の光を思い出す。
集まる流れ。
押し込まれる圧。
「止まらなかった理由は」
ルカが続ける。
「誤認した“乱れ”が消えなかったためです」
ノアが言う。
「実在しない」
「はい」
短い返答。
⸻
レインは少しだけ視線を落とす。
「その乱れは」
短く聞く。
ルカの手が止まる。
ほんのわずか。
それから動く。
紙を揃える。
「……特定できていません」
それだけ言う。
アクセルが眉をひそめる。
「分からないのか」
「痕跡はあります」
ルカは視線を上げる。
「ですが」
一拍。
「発生源は記録されていません」
ノアが言う。
「記録外」
ルカは否定しない。
「可能性はあります」
それ以上は言わない。
⸻
部屋が静かになる。
アクセルが椅子を鳴らす。
「つまり」
「これで終わりか」
ルカはわずかに間を置く。
それから頷いた。
「現象の解析は完了しています」
一拍。
「これ以上は、資料の問題です」
レインは小さく息を吐く。
それで十分だった。
⸻
ルカが続ける。
「今回の件については、王国へ報告が送られます」
「依頼も含めてです」
アクセルが肩をすくめる。
「やっとか」
ルカは視線を向ける。
「サイファで完遂報告を」
短く言う。
「褒賞もそちらで受け取ってください」
レインは頷く。
「ああ」
ノアが短く言う。
「完遂」
アクセルが息を吐く。
「長かったな」
誰も否定しない。
⸻
むぎが胸ポケットの中で動く。
キュ。
レインは軽く押さえる。
ここちゃんが腕の中で耳を動かす。
きゅる。
レインは小さく言う。
「……戻るか」
それだけだった。




