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分かれ道


地下機構は、静まり返っていた。


床に走る回路だけが、淡く光を残している。


さっきまでの振動は、嘘みたいに消えていた。


研究員たちは柱の周囲に立ったまま、動かない。


ルカだけが、中央の柱を見上げていた。


「……安定しています」


アクセルが肩を回す。


「終わりか」


レインは柱を見る。


乱れはない。


それで十分だった。


ノアが床を見る。


「戻った」


レインは頷く。


「ならいい」


ノアの腕の中で、ここちゃんが耳を動かす。


レインの肩で、むぎが小さく鳴いた。


キュ。


アクセルが息を吐く。


「外も持ってるみたいだな」


「…維持はされています」


ルカが答える。


静けさが落ちる。


その中で。


カインが、一歩前へ出た。


足音がやけに響く。


アクセルが見る。


「どうした」


カインは軽く首を振る。


それから全員を見る。


「今回の件」


一度、言葉を切る。


「ここまで関われたのは、十分です」


アクセルが眉を寄せる。


「は?」


カインは続ける。


「私は――ここから先に、関わる立場ではありません」


静かだった。


だが、はっきりしている。


レインはカインを見る。


逸らさない。


カインも同じだ。


「役目が終わりました」


短く言う。


レインはカインを見る。


意味が分からなかった。


役目?


商人としてか。


案内役としてか。


それとも。


自分の知らない、何かか。


カインは何も続けない。


静かなまま立っている。


レインの中で、いくつかの記憶がよぎる。


市の喧騒。


食卓。


何気ない会話。


笑った顔。


息を吐く。


役目ってなんだ?


分からない。


……だが。


伸びかけた手を止める。


笑いあった時間は本物だった。


そう確信できた。


「行くのか」


ノアが言う。


「はい」


迷いはない。


アクセルが腕を組む。


「急だな」


カインは否定しない。


そのままレインを見る。


レインは目を細める。


一瞬。


それだけで、十分だった。


「席は空けておく」


静かに言う。


カインの目が、わずかに揺れる。


ほんの一瞬。


それから、戻る。


「……ありがとうございます」


次の瞬間。


カインが、足を引いた。


一歩。


距離を取る。


その動作が、妙にゆっくり見えた。


空気が揺れる。


音はない。


だが。


「……行きます」


それだけ残して。


姿が消えた。


レインは動かない。


何も追わない。


ただ、その場所を見る。


アクセルが小さく言う。


「……行ったか」


ノアは視線を落とす。


ここちゃんを撫でる。


レインは一度だけ目を閉じる。


それから開いた。


「戻ろう」


短い。


アクセルが頷く。


「だな」


静かにやりとりを見守っていたルカが出口に視線を向ける。


「地上を確認します」


止まっていた流れが、また動き出す。


レインたちは、通路へ向かった。


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